裁判所は、サイガ号事件では、原告の第73条に基づく議論が十分に根拠があるので、こうした非限定的解釈の問題に立ち入る必要はないとの判断を示した。
しかし、少数意見に立った裁判官らは、こうした多数意見の姿勢を否定した。例えば、パク、ネルソン、チャンドラセカラ・ラオ、ヴカス及びンディエ裁判官による共同反対意見は、第292条の起草過程を紹介するとともに、ヴァージニアのコメンタリーの「本条が抑留のすべての事例(例えば、領海での抑留を含む。)に適用されないことを明らかにするために、アメラシンゲ議長の第3草案第1項の序言は、『合理的な保証金の支払又は合理的な他の金銭上の保証の提供の後に船舶及びその乗組員を速やかに釈放するというこの条約の規定』を抑留国が遵守しなかったという相互参照を含んだ(81)」という1節を紹介し、第292条は明らかに限定的解釈を採らざるを得ないとして、非限定的解釈を批判した(82)。また、山本裁判官らは、同条は、沿岸国の司法権に対する抑留国船舶の旗国の特別の介入・干渉が許される手続を定めたものである以上、沿岸国が行なうすべての抑留事件に適用されるものではない。抑留に対する異議申立が認められるのは、条約の特定の実体規定において明文で認められている場合に限り、適用が認められるという性質のものである、とした。すなわち、即時釈放の制度は、厳格な限界を伴いかつ特別の規則を伴う自己完結的な制度であるというのである(83)。なぜなら、海賊行為(第105条)、奴隷貿易(第99条)、海賊放送(第109条)及び麻薬の不正取引(第108条)による拿捕の場合に、これらに即時釈放の適用があるとは誰も考えないであろうからである(84)。拿捕が行なわれても、その原因行為の性質上、当然に且つ明白に即時釈放請求の適用除外とされるものが存在するのである(85)。
4 原因行為の法的性質の決定
本事件で、裁判所は、「船舶及び乗組員の即時釈放手続の独立性に照らして、裁判所は抑留国による分類に拘束されない」として、「本件手続の適用にあたって、ギニアの行動は海洋法条約第73条の枠組み内にある」(71項)と結論した。
サイガ号の拿捕が海洋法条約第73条関連のギニア海洋漁業法(95/13/CTRM)に基づくとするのである。