この点については、すでに山本裁判官と牧田教授による詳細な分析があり、屋上屋を架すことになるので、ここでは主要な部分のみの紹介にとどめたい。
まず、パク、ネルソン、チャンドラセカラ・ラオ、ヴカス及びンディアエ裁判官の共同反対意見は、「原告は、サイガ号の拿捕及び抑留が条約第73条に違反すると主張する。そして、それを理由として、条約第292条に基づいて船舶及び乗組員の釈放を命ずるように裁判所に要請している」「第292条1項は、即時釈放の命令以前に満たされるべき3つの条件を要求している」が、「問題となるのは、旗国による、抑留国が『合理的な保証金の支払又は合理的な他の金銭上の保証の提供による船舶及び乗組員の即時釈放の条約規定』を遵守していないという主張である。裁判所は、抑留国が釈放に関する条約規定に従わなかったという旗国の『主張』に単に依拠して、第292条に基づき、拿捕された船舶の迅速な釈放を裁判所に命ずることはできない。旗国がその不遵守を主張する条約規定にカバーされる理由によって拿捕が実際になされたかどうかが立証されなければならず、その立証責任は不遵守を主張する原告にある」として、「被告は条約第73条を遵守しなかったという原告の主張は、十分な根拠をもつものではない(73)」と批判した。また、アンダーソン裁判官も、本件の問題点は、原告の主張が十分に根拠をもつかどうかという第73条の解釈及び適用問題であるとして、結論として、「当該船舶は第73条2項の意味での『拿捕された船舶』でなく、原告の主張は裁判所規則第113条の意味での『十分に根拠ある』ものではない。したがって、条約第292条4項に基づく『船舶の釈放に関する決定』のための法的起訴は不十分である(74)」と多数意見を非難した。さらに、ウォルフレム裁判所次長と山本裁判官の共同反対意見は、「抑留国が条約第73条を遵守しなかったという単なる申立だけでは、条約第292条適用のための条件を満たしたといえない。第73条に関して抑留国の抑留措置と関係国内法令の適用の間に「真正な連関」(genuine connection)が存在しなければならない。その立証責任は原告にある。かかる連関がなければ、原告の申立が十分に根拠のあるものではないと結論せざるを得ない(75)」とした。本事件を論評したブラウン(E. D. Brown)教授も、この点につき同様の批判を加えている(76)。