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アンダーソン裁判官は、こうした多数意見の立場を擁護して、「これらの問題は決して単純でない。今日、バンカリングは様々な状況下で行われ、客船、軍艦、貨物船、漁船を含む、異なるタイプの船舶に起こり得る。例えば、バンカリングを行う直前ないし直後に、被補給船舶が航行の自由を享受していることがあり得る。そのような場合には、バンカリングは条約第58条1項の意味での航行の自由に関連する『国際的に適法な海洋の利用』で、かつ『船舶の運航に係る』ものに相当することがあり得る。別の例を挙げれば、許可を得てかつ条約(特に第62条4項)に合致する、沿岸国の法令によって定められた条件に従って、漁船がEEZ内で漁獲に従事している場合があり得る。…しかしまた、漁船は母港と離れた漁場の間を通過航行中に給油の必要がある場合もあり得よう。…幾つかの他の例も考え得る。要するに、裁判所は抽象的にかつ必要な資料や証拠なしにそのような様々な状況に言及し得なかった(69)」のであると説明する。なお、ヴカス裁判官も、「バンカリングは海洋法会議の当時に明示に言及されなかった新しい活動であるけれども、条約第58条1項の意味での『国際的に適法な海洋の利用である』(70)」との意見を付した。また、ザオ裁判官は、「原告は、バンカリングは条約第58条1項に基づいて公海の航行の自由又は国際的に適法な海洋利用であると主張する。しかし、…EEZ内の漁船へのバンカリングは海洋法条約上の航行ではない。EEZは独自の法的地位をもつ水域として、公海の一部でもまた領海の一部でもない。問題なのは、サイガ号の航行ではなく、ギニアのEEZ内におけるバンカリングという商業活動である。航行の自由がバンカリングやそれに付随する他のすべての活動、権利を含むとするのは間違いである。公海において自由であるから、バンカリングはEEZ内においても自由であるという見解は法的に支持し得ない(71)」との意見を付した(72)。いずれにしても、この問題は裁判所の中でも見解が分かれており、どのような法的評価が与えられるかは今後の各国の実行を見極めていくしかないように思われる。

 

2 評価基準の妥当性

サイガ号事件での事件の受理可能性に対する多数意見による「立論可能か十分にもっともらしい」との評価基準については、判決が12対9で分かれたことでもわかるように、裁判所内部でも強い批判が寄せられた。

 

 

 

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