しかし、そのことから、ただちに国際法違反とはならない。なぜなら、第62条4項の「特に(inter alia)」の文言からわかるように、同項はあくまで例示規定にすぎないからである(62)。いずれにしろ、ITLOSのこの判決をみる限り、少なくともバンカリングについて、先の「国際的にも、漁業等付随行為まで主権的権利が行使されているのが一般的である」(傍点筆者)とまでいえるかどうかは、やや疑問である。
なお、サイガ号事件の本案では、セント・ヴィセントは、バンカリングを、「条約第56条2項と第58条及び条約の関連規定に規定されている航行の自由と航行の自由に関連する国際的に適法な海洋利用(63)」であり、「サイガ号による燃料の補給は、これらの権利の行使に当たる(64)」と主張した。これに対して、ギニアは、「ギニアの行為は航行の自由にも、また航行の自由に関連する国際的に適法な海洋利用にも違反していない(65)」「ギニアは自らのEEZで操業する漁船への軽油の無許可販売を防ぐために関税法及び禁輸法を適用する権限をもつ。こうした燃料供給は航行の自由や航行の自由に関連しうる国際的に適法な海洋利用の一部ではなく、商業活動であり、条約第58条の範囲に該当しない(66)」と反論した。裁判所も指摘するように、本事件で、「両当事者は、裁判所に沿岸給油(offshore bunkering)、すなわち洋上の船舶への軽油販売との関係において沿岸国と他の国の権利について宣言するよう要請した」。両国の主張の内容は前述の通りであるが、「さらにギニアは、EEZ内のバンカリングは、あらゆる場合に同一の地位をもつのではなく、例えば、EEZ内で操業する船舶へのバンカリングと航行中の船舶へのそれが対比されるように、異なる考慮が当てはまると示唆(67)」した。
バンカリングという厄介な問題について、裁判所の判断が注目されたが、裁判所は、「決定を求められている争点は、ギニアによってとられた行為が、条約の関連規定に合致するかどうかである。裁判所は、その問題につき、EEZにおけるバンカリングに関する沿岸国と他の国の権利という広範な問題に言及することなしに、事件の特定の状況に適用可能な法に基づいてかかる争点に関する決定に到達した。したがって、裁判所は、この問題についていかなる認定も行わない(68)」と判示したのである。