そのため、日本では、外国人による漁業又は水産動植物の採捕に係る許可制の実効性を確保するために、外国人による漁業等付随行為に一定の規制を課し、農林水産大臣の承認を得ようとする申請書に、例えば、「申請に係る漁業等付随行為の目的及び方法、予定海域並びに予定期間、…船舶への補給に係る申請にあっては、補給するもの及びその予定数量」を記載することが求められているのである(56)。なお、この「漁業主権法」は、「漁業」という用語に「漁業等付随行為を含む」(第2条1項)とした結果、「従来のわが国の漁業関係法令が想定していた漁業概念を大きく拡大し(57)」ている。
サイガ号事件で、ギニアは、バンカリングにつき先の法的構成をとらず、ギニア関税規則に違反した密輸と位置付け起訴を行った(58)。ITLOSは、バンカリングにつき2つのアプローチが可能だとしながらも、明確な結論を提示する必要はないとした。なぜならITLOSは、即時釈放の申立の許容性のためには、条約第73条2項の不遵守が「立論可能か十分にもっともらしい」という基準を満たしていれば足りるとし、この問題に深く立ち入る必要はないとしたのである。たしかに、この段階で裁判所に求められていたのは、ギニアによるサイガ号の拿捕が正当であったかどうかではなく、拿捕に続く抑留が即時釈放の規定に違反していたかどうかであり、裁判所のこうした姿勢に一定の理解は可能である(59)。いずれにしろ、裁判所が整理した2つのアプローチとは次の通りである。第1は、バンカリングを、EEZにおける生物資源の探査、開発、保存及び管理のための沿岸国による主権的権利の行使についての規制対象とみなす議論である。つまり、バンカリングを、本来、補給を受ける船舶の活動に付随する活動とみなすのである(60))。第2は、洋上におけるバンカリングを、航行の自由という法制度により規制される独立した活動(EEZで行われる場合は、条約第59条にいう未帰属の権利)とみなす議論である。EEZを設定しながら、漁船へのバンカリングに関する規則を制定していない国の立場は、それらの国がバンカリングを漁業等付随行為とみなしてはいないとの解釈を可能にする。実際、沿岸国の法令の対象を列挙した条約第62条4項にバンカリングヘの言及はない(57-59項)(61)。逆にいえば、日本の「漁業主権法」は、条約第62条4項が明示に国内法の規律事項の対象としていないものまで、規律事項にしていることになる。