なお、判決のスペイン語訳については、規則第64条4項は当事者が訴答書面のために英語又はフランス語以外の言語を選択した状態を扱っており、本件手続とは異なるとし、判決をスペイン語に翻訳せよとの原告の要請は受け入れられないとして、これを退けた(77項)(53)。
以上が、カモコ号事件の判決の概要である。次に、これらの判決の間題点について考察してみたい。
四 判決の問題点
1 バンカリングの法的地位
周知のように、いわゆる「漁業主権法」は、「この法律において『漁業等付随行為』とは、水産動植物の採捕又は養殖に付随する探索、集魚、漁獲物の保蔵又は加工、漁獲物又はその製品の運搬、船舶への補給その他これらに準ずる行為で農林水産省令で定めるものをいう」(第2条2項)と規定し、バンカリングを「漁業等付随行為」に位置付け、第9条で農林水産大臣の許可にかからしめている。こうした法的構成が行なわれたのは、「漁業活動は、探索、集魚、漁獲物の保蔵・加工、漁獲物又はその製品の運搬、これらの行為を行なう漁船に対する燃油等の補給等の一連の行為から成り立っている。これらの活動の状況により全体としての漁獲効率が大きく影響されることから、海洋生物資源の適切な保存及び管理を図るためには、これらの一連の行為に関して必要な規制措置を講ずることが不可欠である(54)」との考慮に基づくとされる。つまり、「配分された漁獲量が遵守されるよう関係船舶すべてについて漁獲量の検査が可能となるよう規制」したいとの考えに導かれ、また、「国際的にも、漁業等付随行為まで主権的権利が行使されているのが一般的である」との認識から、これらを「原則として農林大臣の許可制としている」のである。実際問題として、外国人に入漁を認めた場合も、漁獲物の保蔵又は加工、漁獲物又はその製品の運搬及び船舶への補給を規制しなければ、これらの行為を行う船舶について立入検査ができず、漁獲量の範囲内の漁獲が行われたかどうかの確認ができなくなってしまう。EEZ内の生物資源の保存義務を負う沿岸国として、こうしたものに規制の網をかけたいと考えるのはいわぱ当然である(55)。