まず確認しておきたいのは、本件では両当事者により裁判所の管轄権は争われず、申立が受理可能であるかどうかについて争われたのみであるという点である。本件で、被告フランスは、原告パナマがカモコ号の抑留から3ヶ月以上経ってから申立を提出したことを捉え、「第292条は『速やかな釈放』について規定し、これは『速やかな釈放』の観念に内在する緊急性の特徴を帯びており、原告は速やかに行為しなかったことにより、エストッペルに類似する状況を生じさせており、申立は受理できない(46)」(51項)と主張した。他方、原告は、「第292条は申立に期限を設けていないし、被告が主張するような遅延はない。…さらに原告は、在パナマフランス大使館によりパナマ外務省に条約第73条4項による通報に相当する通知が行なわれたのは、拿捕からずっと後の1999年11月11日であった(47)」(52項)と主張した。つまり、申立の遅延はこうした抑留国からの通報が遅れたことが原因であり、被告が主張する意味の遅延はないというのである。
これに対して、裁判所は、「第292条は、…旗国が船舶又はその乗組員の抑留後特定の時期に申立を行なうことを求めていない。条約第292条1項の10日間の期間は、当事者に抑留からの釈放の問題を合意された裁判所に付託できるようにするものである。10日間以内にいずれかの裁判所に又は10日の期間の後直ちに本裁判所に行なわれていない申立は、第292条の意味する『速やかな釈放』の申立として扱われないことを示すものではない(48)」(54項)と判示した。また、被告は国内手続が継続中であることを受理可能性の抗弁としたが、裁判所は、「国内救済完了の要件又はこれに類似するものを第292条に持ち込むのは論理的でない」(57項)とし、「第292条は、国内裁判所の決定を争う上訴ではなく、独立の救済を規定する。こうした趣旨目的を阻害する制約を第292条に読み込むべきではない。実際に、第292条は抑留の日から短期間での申立提出を認めるが、国内救済はかかる短い期問に完了することは通常ではない」(58項)からだとして、これを否定した(49)。
また本件で、「被告は、第73条2項の下で、保証金又は他の保証は拿捕された船舶及びその乗組員が釈放可能となる前に満たすべき前提条件であり、原告がこれまで保証金を提供していない以上、申立は却下されるべきだと主張した。