そして、裁判所は、最後に、保証金の決定を行なった。すなわち、裁判所は、「釈放は、合理的な保証金の支払等の提供後に行なわなければならない」(81項)とし、「合理性の基準には、保証金又は金銭上の保証の額、性質及び形式が含まれる」(82項)とした(42)。そして、額面40万米ドルの金銭上の保証が追加されることが合理的であると判示したのである。以上が、即時釈放に関するサイガ号事件の判決の概要である。次に、カモコ号事件判決の概要を紹介したい。
2 カモコ号事件判決(2000年2月7日)(43)
パナマ船籍の漁船カモコ号(The "Camouco")は、パナマにより、南緯20度ないし50度、西経20度ないし80度の南大西洋の「国際水域」でマゼランアイナメ(Patagonian toothfish、以下、銀ムツと略称。)の底延縄漁業の漁獲免許を交付された船舶である。1999年9月28日、同号はフランスの監視船フロレアル(Floreal)の乗船を受け、フランスのクロゼ諸島のEEZ内で違法に延縄漁業を行ったとして拿捕され、スペイン国籍の船長が逮捕された。フランス側の違反調書によれば、カモコ号は同日13時28分、同EEZ内で延縄を流しているのを目撃されている。カモコ号の乗組員は、フロレアルの呼びかけに応じ停船するまでの間に、48個の袋と書類を投棄したが、回収された袋から34キロの生の銀ムツが確認された。また、同船の船倉からは6キロの冷凍銀ムツが発見された。
フランスの地方裁判所は、拿捕された船舶の釈放は総額2000万フランスフランの前納が条件だと命令した(44)。パナマは、当該船舶と船長の即時釈放を求めてITLOSに提訴し、その最終申立において、「裁判所は、海洋法条約第292条により申立につき管轄権を有しかつ受理可能性をもつと宣言すること、フランスは、カモコ号の拿捕及び抑留等に関するパナマヘの遅延した通報等により、第73条4項に違反したと宣言すること、フランスの第73条3項の不遵守を認定すること、フランスは、押収された積荷の価額(35万フラン)を減額しない段階で130万フランの合理的な保証の支払い、つまり最終的に保証金額95万フランで釈放すること、当該金額はITLOSの管理下に置かれること、また、判決のスペイン語訳が用意されるべきこと」を主張した。これに対しフランスは、本件の受理可能性を争い、「申立は許容されないこと、選択的申立として保証金は2000万フランを下回ってはならず、この額は支払保証小切手又は銀行為替手形の形式により提供されること」を主張した(45)。