なお、本事件で、セント・ヴィンセントは、選択的主張として、即時釈放の請求の許容範囲に関して、「非限定的解釈」というべきものにも依拠した。すなわち、海洋法条約第73条や第226条のように、「即時釈放の義務を条約上明文で定めていなくても、国際法に違反して行われた拿捕、例えば第56条2項の他国の権利に妥当な考慮を払うべき沿岸国の義務に違反して行われた船舶の拿捕にも第292条の適用がある」と論じたのである。示された理由によれば、「条約により抑留が許されている場合に即時釈放手続が利用可能で、抑留が許されない場合に利用できないというのは不可解だというのである(37)」(53項)。後述するように、バンカリングについては、漁業活動に付随する行為とみるのか、それとは別個に航行自由に関する独立の活動とみるかについては二つの見方があるが、裁判所は、「サイガ号の即時釈放の申立の受理可能性という目的のためには、条約第73条2項の不遵守が『主張』されていることに注目し、そしてその主張が立論できるか又は十分にもっともらしいと結論することで足りる(38)」(59項)としたのである。
また、ギニアが、バンカリングはギニアの関税規則に違反しており、サイガ号の拿捕は国際法に従ったものであり、その釈放は第292条に基づいて要求できないと主張したのに対して、裁判所は、「裁判所は、サイガ号の拿捕が合法であるか否かを決定することを求められてはいない。拿捕に続く抑留が第73条に違反しているか否かについて決定を求められている(39)」(62項)のだとして、「船舶及び乗組員の即時釈放の手続の独立性に照らして、裁判所は、抑留している国の分類に拘束されない」として、「ギニアの行動が、条約第73条(すなわち、排他的経済水域における漁業活動の規制)の範囲内に入りうる(40)」(71項)と結論したのである。
さらに、ギニアによる「保証金又は他の保証の申入れの提供もないので、条約第73条が申立の根拠たり得ない」との主張については、「第292条によれば、保証金の支払又は保証の提供はそれに対する違反が第292条の手続を適用可能とする条約規定の要件であって、その適用の要件ではない。換言すれば、第292条を適用するために、保証金の支払い等が現実に行なわれていなくても差し支えない」「第73条2項の違反は、保証金が支払われていない場合もありうる(41)」(76項)と判示したのである。