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この請求の当事者の範囲については、第3次海洋法会議でも議論が分かれ、船主・運用管理者・船長に当事者適格を認めるとの案が、1976年の議長第2次案で出されていた。しかし、私人に対して国際裁判所へ出訴権を認めることに沿岸国から反対がでて、現行の条文で決着をみたという経緯がある。山本裁判官も、「海洋法条約の成立経緯と学説の大勢からみても、裁判所の管轄権問題に関する本判決は首肯できる(33)」との見解を示しておられる。

次に受理可能性に関して、裁判所は、第292条の手続と国内手続との関係について、同条3項と4項が併せ読まれる必要があるとして、当該規定の意味を、「本裁判所における手続の当事者である国は、裁判所の下した判決が船舶の釈放及び保証金又は他の保証に関わる限りは当該判決に拘束されるが、抑留国の国内裁判所は、事件の本案を審理するにあたって、本裁判所がその結論に到達するために行なうことのある法又は事実に関する認定により拘束されるものではない(34)」(44項)と判示した。他方、裁判所は、「この第292条の手続は暫定措置のような本案に関する付随手続ではなく、別個の独立した手続である(35)」(50項)とした上で、「本件の本案審理への付託可能性と即時釈放手続の緊急性という事情が、当事者の主張に対する裁判所の『評価基準』に関して無関係ではありえない」として、メンサ裁判所所長を始めとするITLOSの9人の裁判官により批判されることになる多数意見(12人)を述べることになる。すなわち、その評価基準として、「裁判所は、行なわれた主張が立証できるか(arguable)又は裁判所が当面の目的のために依拠することができるという意味において、十分にもっともらしい性質(of a sufficiently plausible character)をもつかに関する評価に基づく方式が適当である(36)」(51項)と判示したのである。

 

 

 

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