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4]の点は、わが国の刑事手続では、被告人の出頭が公判の要件とされていることに関係している(刑事訴訟法第286条及び第285条2項)。各国のボンド制度を検討した村上教授によれば、わが国では、他の国とは異なり、早期釈放が原則であり、抑留は例外である。また、その釈放の時期についても、他の国が起訴後の釈放を専ら規定するのに対して、わが国では起訴前の釈放、厳密には拿捕後とされており、仮にその後の処罰に必要な捜査中であっても、ボンドが提供されれば釈放しなければならない制度となっている点に特徴があるとされる。その結果、違反漁船に乗り組んでいない船主や傭船者をも被処罰者とする各国のボンドのように、処罰自体を確保するという性格をもつものではないとされる(21)

また、村上教授の指摘にあるように、同法では、暫定措置法と同じく、第24条で「拿捕が行われた場合には」と規定し、拿捕を「船舶を押収し、又は船長その他の乗組員を逮捕すること」と定義しており、これらの行為を刑事手続として把握していることがわかる。そうなると、わが国の刑事訴訟法では捜査段階の差し押さえは、原則として裁判官の令状によることとし、例外的に人の逮捕に伴う差押えについてのみ令状を要しないとされているので(刑事訴訟法第220条1項2号、憲法第35条1項)、本件における拿捕は、多くの場合、令状なしに違反船舶を差し押さえることになるから、人の逮捕(この場合は現行犯逮捕)の場合が想定される。つまり、そうした人の逮捕を伴う場合にしか船舶を差し押さえることができなくなる。その結果、現行犯逮捕の要件を満たさない場合には、そもそも船舶を押収できないし、さらに違反者を逮捕することなしに船舶を差し押さえることもできないことになる(22)

さらに、同法において、この制度が罰則に関する第18条の後に規定されていることからもわかるように、本制度は、罰則規定適用のための刑事手続(逮捕、留置、拘留、起訴、公判、判決、刑の執行等)が進められることを前提としている。すなわち、第24条1項にあるように、本法の規定に違反した罪その他の政令で定める罪に当たる事件に関して拿捕が行われた場合には、取調官は、当該逮捕に係る船舶の船長(代行者を含む。)及び違反者に対し、遅滞なく、担保金等の提供による釈放等の措置の提供を受け得ること及び提供すべき担保金の額を告知することとされている。

 

 

 

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