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サイガ号事件で、セント・ヴィンセントは、裁判所規則第111条2項に従い、裁判所はサイガ号及びその乗組員の釈放のために提供されるべき保証金又は金銭上の保証の額、性質及び形式を決定できるとの申立を行った(24項)。そして裁判所は、実際にその金額(40万米ドル〉を決定した(86項主文(5))(15)。また、カモコ号事件では、沿岸国フランスの決定した釈放のための保証金の額(2000万フランスフラン)と形式(現金、支払保証小切手又は銀行為替手形)が、第73条が定める「合理的な」ものであるかどうかが争われた。そして、裁判所により、保証金の額(800万フラン)が独自に算定された(78項主文(4))(16)。類似の事例であるモンテ・コンフルコ号事件でも、フランスの国内裁判所が命じた5640万フランが争われ、裁判所により保証金の額が1800万フランと算定され、その内訳はフランスによって没収された魚158トンに相当する金額900万フランと900万フランの保釈金であると明示された(96項主文(6))(17)

こうしたITLOSの具体的判例の検討に入る前に、国連海洋法条約を先取りする形で、わが国で、1977(昭和52)年に漁業水域に関する暫定措置法に採用され(18)、現行の「排他的経済水域における漁業等の主権的権利の行使等に関する法律」(以下、「漁業主権法」と略称。)第24条以下に引き継がれている、いわゆるボンド(担保金ないし供託金)の提供による早期釈放制度について一瞥しておきたい。

 

二 「漁業主権法」における早期釈放制度

1996(平成8)年6月14日に制定された「漁業主権法」では、海洋法条約第73条の「保釈金による速やかな釈放」の義務を受けとめる形で、漁業水域に関する暫定措置法の場合と同様の規定が置かれている(19)。村上、大塚両教授によれば、同法のボンド制度は、

1] 船舶及び人の釈放を規定していること(第24条1項1号)、

2] 釈放決定権者が行政機関であること(第24条2項)、

3] 起訴前の釈放であること(第25条)、

4] 保証の内容が処罰のための出頭確保にあること(第26条)

の4点に基本的特徴があるとされる(20)

 

 

 

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