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船舶等の即時釈放をめぐる諸問題

―ITLOSの二つの事例の検討を通じて―

 

関西大学教授 坂元茂樹

 

一 はじめに

国際海洋法裁判所(以下、ITLOSと略称。)は、1997年10月28日に裁判所規則及び同規則第50条に基づく「書面・口頭陳述の準備及び提出の指針」(Guidelines concerning Preparation and Presentation of Cases before the Tribunal) 等を採択した。これらの規則及び指針は、1994年に採択された深海底制度実施協定附属書第1節2項の「締約国による費用の負担を最小にするため、条約及びこの協定に基づいて設置されるすべての機関及び補助的な組織は、費用対効果の大きいものとする」という規定を受けて、「利用しやすく、効率的でかつ費用対効果の大きい」(use-friendly, efficient and cost-effective) 裁判所をめざして採択された(1)。とりわけ、国連海洋法条約(以下、海洋法条約又は条約と略称。)第292条が規定する船舶の「速やかな釈放」(prompt release) (以下、即時釈放又は早期釈放と略称。)に関する裁判所の手続は、最もそうした特徴を具備している。裁判所規則E節(第110条から第114条)がこうした即時釈放の手続を定めるが、その第111条はかかる訴訟において陳述すべき事実の内容を詳細に規定し、第112条では、「裁判所の決定は、判決の形式で行なわれる。判決は、できるだけ速やかに採択され、弁論の終結から10日以内に開かれる裁判所の公開廷で朗読される(2)」(4項)といった迅速な処理を規定している。こうした規則を採択して間もなく、11月3日に、セント・ヴィンセント及びグレナディーン(以下、セント・ヴィンセントと略称。)がギニアに抑留されている自国船籍サイガ号とその乗組員の即時釈放を求めて、裁判所に訴えを提起した。そして、裁判所は同規則に則って審理を進め、早くも1997年12月4日に判決を下した。

 

 

 

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