日本財団 図書館


その後もITLOSは、2000年2月7日に、パナマ対フランスによるパナマ船籍の漁船カモコ号及びその船長の即時釈放に関するカモコ号事件判決を、さらに同年12月18日、セーシェル対フランスによるセーシェル船籍の漁船モンテ・コンフルコ号及びその船長の即時釈放に関するモンテ・コンフルコ号事件判決(3)を下した。最後の判決を例にとれば、判決が下されたのは、セーシェルの訴えを受理してからわずか3週間後という迅速さである(4)。なお、この判決の内容は先ごろインターネット上で公表されたが、紙幅の関係もあり、本格的な検討は別稿に譲り、本小論の分析に必要な限りでの言及にとどめたい。

周知のように、海洋法条約第73条1項は、排他的経済水域の沿岸国の法令の執行について規定し、「この条約に従って制定する法令の遵守を確保するために必要な措置(乗船、検査、拿捕及び司法上の手続を含む。)をとることができる」と規定する一方で、2項で「拿捕された船舶及びその乗組員は、合理的な保証金の支払又は合理的な他の保証の提供の後に速やかに釈放される(shall be promptly released) 」と規定する。同様の規定が、海洋環境の保護に関して法令違反を行った船舶につき第226条1項(b)号に置かれている。そして、この船舶及び乗組員の即時釈放という主題が、第292条で扱われている。ところで、前述の第73条2項の規定の意義については、「生物資源の管理及び海洋環境の保護に関して沿岸国の権利が拡大して、漁船その他の船舶及び乗組員が沿岸国の国内法令による処分のために留め置かれる機会が増大したのに対して、船舶の旗国等が金銭を担保にして沿岸国の国内法上の手続から船舶の所在場所を切り離して、船舶の航行の自由を回復することを可能にするものである(5)」といった説明が行なわれる。この第73条における、いわゆるボンド提供による早期釈放の制度は、村上教授の指摘にあるように、「先進国や漁業国が200カイリ排他的経済水域を認める際の条件の一つとして同条約に盛り込んだという経緯を有」しており、「その意味で200カイリ水域特有の制度と言うことができ(6)」る。また、本条の意図は、「〔国内〕裁判のための拘留が長引くことをさけるための規定である(7)」とも説明される。

しかし、海洋法条約の起草にあたって、各国はこうした実体規定だけで十分とは考えなかった。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION