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かつては、公海上であれば、航行についても漁業についても、旗国主義が適用されるために、「漁業活動」の定義はさほど重要視されなかった。ところが、公海漁業に対する新しい国際規制が進展すると、「漁業活動」の定義は、まさに、船舶の活動が「漁業活動」に該当し、旗国主義が緩和されて他国の干渉を許すのかという判断を構成することになり、公海上の「漁業活動」の定義が新たな議論の的ともなっている。*24

また、近年「海賊」と称される事例は、大半が、領海か国際海峡を構成する領海で発生しており、本来は、「海賊」概念の適用のある事例ではない。つまりは、領海沿岸国は、自らの領海において秩序維持の能力を欠いており、掠奪行為を行なう船舶の旗国も、自国登録船舶に対する規制能力を欠いていることこそが、問題の本質である。したがって、本来的には、これらの関係国が、領域主権や、自国登録船舶への規制権の実効的行使によって、解決すべき問題であり、航行の自由に対する挑戦であり、「人類の敵」とみなされた、伝統的な「海賊」概念とは、接点すらない。それにもかかわらず、「海賊」と称されるのは、旗国主義や沿岸国権利の伝統的な理解にたっていては対処することのできない実際上の状況が存在しており、海上交通の利益を回復・維持するためには、「国際社会全体が」あらためて対応を迫られている問題群であるという危機意識の現れであろう。

これらの新しい現象をみるにつけても、船舶の航行の権利・航行利益・旗国主義、そして排他的経済水域や領海での、これらに対抗する「沿岸国(に固有の関連利益を根拠とする)の権利」との関係、という従来の基本的構造では、国連海洋法条約の長期的にたえうる解釈論を展開することは困難になってきているとすらいえる。旗国による秩序維持の担保があるからこそ、旗国主義や旗国優先が認められており、航行の権利や航行利益が保護されたのである。沿岸国が固有の利益に基づく権利を実効的に行使することが前提となって、旗国と沿岸国の権利間の調整がはかられたのである。しかし、そうした根本的な想定が変質しつつある以上、国連海洋法条約の関連規定の解釈にも、新たな実際上の要請を反映させていくことが求められよう。

 

 

 

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