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おわりに

本稿では、航行の自由、旗国主義、航行利益について、国連海洋法条約が一貫した原理を実現しようとしているかという問題意識にたって、関連規定のいくつかをあらためて検討してきた。

公海では、特別な例外をのぞけば、船舶は航行の自由をもち、旗国主義によって、他国の干渉を排除できるという制度的担保が、原則として存在する。しかし、公海とは異なり、沿岸国の権利が事項ごとに異なり、外国船舶に対する管轄権の配分や競合が複雑になる排他的経済水域においては、具体的な事項ごとに、船舶の航行の自由や航行利益の内容を特定し、旗国と沿岸国との権利の調整の結果として、合理的な解釈を導く必要がある。この問題についての、領海と排他的経済水域の相違についても同様である。

さらに、たとえば、排他的経済水域において、沿岸国の外国船舶に対する措置を、まさに、沿岸国に固有の利益に基づいた管轄権行使と解するのか、それとも、沿岸国は、広大な海域を構成する排他的経済水域について、海洋環境の保護及び保全に関わる点で、自国の沿岸利益という観点からだけではなく、国際社会に対して、一種の責務負担をしていると解するかによっては、沿岸国と旗国との権利の調整の仕方も異なってくるはずである。同じことは、入港国の管轄権についても該当する。*21

他方で、漁業の分野においても、特に公海漁業について、従来の航行の自由および漁業の自由、そして、これを担保する旗国主義、といった伝統的な図式はくずれつつある。*22地域的な生物資源保存条約体制において、旗国主義だけに依存して、公海生物資源の保存措置の遵守を確保するということはすでに困難であり、条約締結国や入港国による執行措置を認めた、新たな執行にかかわる手続きを採用する例が集積している。そして、国連海洋法条約自身についても1995年の公海漁業資源保存に関する実施協定は、旗国主義を少なくとも緩和した、新しい執行手続きを採用しているのである。*23

 

 

 

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