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ただ、重要なことは、国連海洋法条約が、早期釈放制度や航行利益の保護に関連すると解される規定群において、必ずしも首尾一貫した原理を具現しているとはいえないことである。

第二に、海洋汚染船舶と同じく、漁業法令違反について、領海内の漁業法令違反であれば、沿岸国が有害船舶に対して措置を取るとしても、27条4項にいう「航行の利益」が保護される例はありうるが、それ以外には、漁業法令違反船舶について、早期釈放制度による保護はない。したがって、領海における漁業法令違反船舶には与えられない利益であるが、排他的経済水域上の漁業法令違反船舶には与えられる利益があり、それが73条の早期釈放制度の根拠であることが論証されなければ、国連海洋法条約が73条で早期釈放制度を規定した趣旨を理解することはできない。沿岸国の、領海に対する「領域主権」と排他的経済水域に対する「主権的権利」との相違、あるいは、排他的経済水域上の外国漁船の利益と、領海上の外国漁船の利益との相違などによって、説明することができるのであろうか。

第三に、なぜ、漁業法令違反船舶と、海洋汚染船舶についてのみ、早期釈放制度が認められるのか、その理由が不明である。排他的経済水域沿岸国の権利という観点からすれば、沿岸国は、漁業については主権的権利をもつが、海洋環境の保護及び保全と同様に、科学調査についても管轄権をもつ。排他的経済水域沿岸国は、科学調査の規制・許可・実施の権利をもち(246条1項)、排他的経済水域の調査には、沿岸国の同意が必要である(同条2項)。

ところが、たとえば外国船舶が、沿岸国の同意を得ないで科学調査を行った場合などに、沿岸国がいかなる措置を取れるかについて、国連海洋法条約は規定していない。*19科学調査については、沿岸国は「管轄権」をもつという点で、海洋環境の保護及び保全と同様に解することができる。そうであるとすれば、上に検討したように、外国の科学調査船舶については、排他的経済水域上で航行の自由をもち、かりに、沿岸国の法令に違反したとしても、また、科学調査に従事している間であっても、原則としては旗国主義の適用があり、沿岸国の管轄権との競合が認められることによって制約を受けない限りは、船舶は航行の自由を享受し続けると解することになる。

 

 

 

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