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旗国主義と沿岸国管轄権との均衡をはかる結果として、船舶の航行利益を保護する要件を細かく設定しながら、沿岸国の執行管轄権が認められているのである。つまり、排他的経済水域においても、船舶は航行の自由をもち、海洋汚染を行ったとしても、旗国主義による航行の自由の担保があるが、あくまで競合として沿岸国管轄権が認められており(したがって、沿岸国の管轄権の行使は、義務ではなく任意である)、沿岸国管轄権が行使される場合に、旗国主義にかわって、航行利益を保護するのが、沿岸国管轄権に付された限定要件であるということである。それに比較して、沿岸国の漁業法令違反の場合には、旗国との管轄権の競合はなく、罰則についての実体的な制限と旗国通報という制限が課せられるとはいえ、沿岸国の主権的権利が、外国船舶に対して行使されるのである。

このように解する場合には、排他的経済水域を通航する外国船舶は、海洋汚染を行っても、なお航行の自由をもち、旗国主義による一定の担保を与えられており、これを航行利益の尊重とよぶとしても、それは、航行の自由と区別されるものではない。それでは、沿岸国の漁業法令違反を行った船舶、あるいは、漁業活動に従事した瞬間から漁船は、排他的経済水域上の航行の自由を失うのであろうか。*18もしそう解することができるとするならば、なぜ、法令違反の漁船について、早期釈放制度が認められているのか、さらに、なぜ、早期釈放制度については、沿岸国法令違反の漁船についても海洋汚染船舶についても同様に認められているのか、なぜ、漁業法令違反船舶と海洋汚染船舶だけに早期釈放制度の適用があるのか、早期釈放制度の存在理由は何か、といった疑間が、船舶の航行利益に関して生ずるのである。

 

(5) 早期釈放制度と航行利益

既述のように、早期釈放制度については、73条2項、226条1項bに規定がある。制度の趣旨は、漁業活動の停止を長期化することによる損失、石油価格の変動などによる損失を防ぐことであり、つまりは、船舶が停止されることにより、具体的に発生する損失を最小化する点にあるとされている。漁業法令違反船舶とは異なり、海洋汚染船舶については、早期釈放制度以上に、航行利益の保護がはかられている。

 

 

 

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