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また、220条2項の「第2部第3節の関連する規定の適用を妨げることなく」という限定を、「無害通航の保護」という意味に特定して解する場合でも、220条2項の航行利益を考慮した要件を尊重することには、何も問題はない。しかし、「第2部第3節の関連する規定の適用を妨げることなく」という限定を、第2部第3節のすべての規定を指していると解すれば、そこには当然に25条が含まれる。つまり、25条の規定の適用は、妨げられてはならないことになる。したがって、25条の適用によって、沿岸国が有害行為(つまり海洋汚染行為)を行う外国船舶に対して沿岸国が必要な措置を取るのであり、220条2項がこの25条の「規定の適用を妨げることなく」適用されるのであれば、少なくとも有害行為に該当する汚染外国船舶に対する沿岸国の措置については、要件や内容において220条2項の制限は、適用がないことになる。

かりに、実際上は、19条2項hの「故意による重大な汚染行為」が希少であり、大半の海洋汚染行為は220条2項の適用によって処理されるということからして、19条2項及び25条と、220条2項との、「実際上の」適用範囲の区別は成立するかもしれない。しかし、220条2項では、執行措置の内容も要件も限定することで航行利益を保護していることと、25条の適用によるにせよ有害船舶に対する沿岸国の領域主権行使と解するにせよ、その場合には、航行利益の考慮が要請されないことは、明らかに一貫性を欠く。つまり、国連海洋法条約が、船舶の航行利益を保護するという基本的な原理を採用しているとしても、一貫性が欠如しており、根拠も不明であるという、より根源的な疑問は残されたままなのである。

第二に、220条2項と27条との関係では、まず、両者の適用対象である汚染行為が、つねに一致するわけではない。たとえば、「結果が沿岸国に及ぶ場合」ではあっても、違反行為が「あったと信ずるに足りる明白な理由」がなければ、27条の適用はあっても、220条2項の適用はない。しかし、同一の汚染行為に対して、両規定の適用がある場合も存在する。そのときに27条の「刑事裁判権」の行使であれば、27条4項の「航行の利益の考慮」をはかればよいが、220条2項によれば、第12部7節の保障措置規定の適用を受けることになる。*17

 

 

 

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