19条2項hで、「この条約に違反する故意かつ重大な汚染行為」があれば、外国船舶は有害通航を行っていることになり、25条の適用によってか、もしくは25条の適用はないが沿岸国の当然の主権行使の結果として、有害通航船舶に対して、必要な措置を取ることができる。また、海洋汚染行為が、27条1項の犯罪類型に該当すれば、27条の適用がある。他方で、第12部では、220条が、2項は、違反場所が領海であり現に航行中の場所も領海である場合について規定しており、同3、5、6項は、違反場所が排他的経済水域であり、通航の場所が領海もしくは排他的経済水域である場合について規定している。そして、外国船舶による海洋汚染行為が、有害通航に該当するかしないか、27条の適用をうけるか否かは、個々具体的な場合によって異なるが、有害通航に対する沿岸国措置と、27条の適用がある場合とで、航行利益の考慮の有無が生ずるのが疑問である点は、上記のとおりである。
220条2項と領海に関する第2部第3節の規定との関係という観点からは、第一に、220条2項と19条2項の有害通航および有害通航に対する沿岸国の措置との関係が問題になる。220条2項の想定する海洋汚染行為が、19条2項の「故意かつ重大な汚染行為」とは完全には一致しないことは明らかである。しかし、両者全く別個であるわけではなく、つまりは、同じ海洋汚染行為について、19条2項により有害行為と認定でき、25条の適用によって(もしくは適用はないが沿岸国の領域主権の行使として)、沿岸国が汚染外国船舶に対して措置をとる場合と、220条2項の適用によって、沿岸国が措置を取る場合との整合性の問題がある。外国船舶の有害通航に対する措置であれば、それについては、要件も規定されていなければ航行利益の考慮という要請も規定されていない。他方で、220条2項にいう沿岸国の措置であれば、同項の要件にしたがって、物理的検査を行うか、さらに、第12部7節の保証措置規定にしたがって、船舶の抑留を含む手続きを取ることになる*16
このように、第2部の領海関連規定によるか、220条2項によるかによっては、同じ汚染外国船舶に対して、沿岸国が取る措置の程度も要件も異なっている。第2部の領域関連規定と、220条2項との関係を、一般法と特別法(220条2項は、汚染行為を行う外国船舶についての特別法)ととらえれば、220条2項が優先されるのであり、220条2項が実現しようとする航行利益の保護が、汚染外国船舶については、つねにはかられることになる。