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25条にいう「有害」通航や、そもそも「通航」に該当しない活動を行う船舶が、無害通航権を享受しないことは明らかである。それらは、18条および19条の解釈によって認定される。それでは、27条1項の規定する、沿岸国が刑事裁判権を行使できるような外国船舶内の犯罪が行われたとか行われているときに、かかる外国船舶が無害通航権の行使中であり、この権利を保護しながら、最小限、沿岸国が刑事裁判権をとりうる場合と条件を、27条1項が規定していると解されるのであろうか。そうであるとすれば、27条4項は、まさに無害通航を行っている船舶に対して、沿岸国が刑事裁判権を行使するにあたっての航行利益の考慮ということになる。そして、ここで「航行の利益」の考慮も無害通航権の保護とは同義に解することができる。他方で、27条1項に規定する船舶内犯罪が行われる場合であって、たとえば、27条1項のaで「犯罪の結果が沿岸国に及ぶ場合」や、同bの「沿岸国の安寧又は領海の秩序を乱す性質」のものである場合には、19条11項の「沿岸国の平和、秩序または安全を害するもの」や、19条2項のいずれかの態様に該当する可能性は大いにある。*14その場合には、当該外国船舶は、有害通航を行う船舶となるのであって、無害通航権を失っている。それにもかかわらず、27条4項は、航行利益の考慮を規定しているのであるから、これは、無害通航権という通航の権利の保護とは別の航行利益であり、その考慮が沿岸国に求められる、ということになる。つまり、外国船舶が無害通航という航行の権利を享受していなくても、外国船舶の航行利益は考慮されるのであり、そのような航行の利益の考慮要請の理由は、無害通航権(航行の権利)の保護の一環として説明することはできないのである。

さらに、25条1項の適用によると解するにせよ、25条1項の適用はないが、沿岸国の領域主権の行使であると解するにせよが、沿岸国は、有害通航を行う外国船舶に対して必要な措置をとることができる。これについては、航行利益の考慮という要請は規定されていない。つまりは、27条の規定する刑事裁判権の行使の場合にのみ、航行の利益の考慮が要請されることになる。27条に規定する「船舶内犯罪」が、「船舶」自体の活動として、19条の規定する「船舶」による有害通航と合致するとは限らないとか、27条は、あくまで刑事裁判権の行使の場合に限定した規定であるとか、などの留保はある。

 

 

 

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