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(2) 有害通航に対する沿岸国の措置と27条の関係

27条4項に規定する航行利益の考慮の要請は、領海沿岸国の外国船舶に対する執行措置においても該当するのか、という点に関わるいくつかの解釈の可能性がある。

25条は、沿岸国の保護権を規定しており、外国船舶が、有害通航を行うことを「防止」する措置をとることを認めている。外国船舶が、すでに有害通航を行っている場合に「防止」でなく、これを「阻止」する措置については規定がない。けれども、上述のように、そうした場合には、外国船舶は、すでに無害通航権を失っているのであるから、当然に、沿岸国は必要な措置を取ることができると解される。25条1項によれば、「必要な措置」という規定にとどまるのであって、それが、行政法上の措置に限定されるわけでもなく、刑事裁判権の行使も含まれる。そして、「必要な措置」をとるにあたっては、航行の利益を考慮するという、沿岸国保護権に対する制限はない。規定の位置関係と内容という点から、25条が含まれる第2章3節A「すべての船舶に適用される規則」と、27条が含まれる同B「商船及び商業目的のために運航する政府船舶に適用される規則」との関係は、Aが総則であるのに対して、Bが特定の船舶に関してのみ規定する特別法、という関係であるといえる。そうであるとすれば、27条4項が、25条の適用のある場合についても適用があり、25条の適用においても、航行利益の考慮が要請されるという解釈はとりにくい。

もっとも、25条は、有害通航を「防止」する場合のみの沿岸国の措置を規定しており、現実に行われている有害通航に対して沿岸国が取る措置については、当然のことであり、国連海洋法条約は特に規定していない、という解釈も可能ではある。とすると、そうした沿岸国の措置の中で、27条の適用がある刑事裁判権の行使の場合についてのみは、27条4項により、航行利益の考慮が要請される、という結論にもなる。これは、「商船及び商業目的のために運航する政府船舶」について、27条の適用のある犯罪と、船舶の通航の有害性との関係の問題である。

 

 

 

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