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そこで中断するには付近にいる遺族・関係者に「何故、作業ができないのか」納得するまで説明しなければならなかった。当初はトルコ語通訳が常時一緒にいなかったので、コミュニケーションに限界があり困難であった。

そして何より、「自分達が納得する理由」が必要であった。理屈は分かっている。生存者を救出するには時間を無駄にすることはできない。作業を中止するなら早いほうが良い。隊員の疲労も少なくてすむ。先の見えない派遣に疲労は少ないに越したことはない。しかし私には常に「これで良いのか」「ここで切り上げるのが本当にベストなのか」という思いにかられた。ここで止めていいのか。現場を離れる時は、作業に対してお礼を述べられたり握手を求められたりしたが、いつも後ろ髪を引かれる思いだった。

さて、実際の作業の流れについて述べる。日本チームは現地対策本部からの生存者情報に基づいて出動する。まず5人くらいのチームで生存者の確認にあたる。班員を残すのは、生存者の確認のみならば多人数は必要としないこと、また、隊員全員が何らかの作業に従事していた時間帯もあったことから、本部に残って情報収集・整理等をする人員が必要であったからだ。器材はボーカメ、音響探知器、ストライカー等を携行した。これで生存者が確認されれば、待機している隊員を出動させ、必要な器材を持ってこさせる。残念ながら生体反応が得られなかった場合は、簡単な工作作業で搬出可能であれば実施するが、手間取ることが予想される場合は直ちに中止する。

現場の状況は言うまでもなく倒壊現場である。倒壊した建物は、いつ崩れるか分からない。まして強い余震が来ようものなら崩れない保証は一切ない。当然ながら長時間、危険な場所にいるようなことは好ましくない。要救助者が挟まっている区画へ到達する一番安全な方法は時間がかかるが「上から崩す」ことである。生存者にはその時間的余裕がないので少しずつ瓦礫を破壊、除去して行くのである。生存者が確認できない時は、むやみに、危険な区画へ進入することは避けなければならない。

人数には比較的余裕がある。エンジン物を使用する時、窮屈な姿勢で作業せざるを得ない時はどんどん交代して実施する。能率が落ちてから交代するのでは遅い。ただしシリウスは特殊な技能が要求されるので、交代できない場合が多かった。器材は海保が普段あまり使わないような機材が多いので派遣されたら早期に確認しておく必要がある。

 

 

 

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