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昨年度決勝大会

 

そして「わずかな」の中身が「半本を下回る」「半本以上の」「一本以上の」狂いによって点数が段々と下がる仕組みになっています。一本以上の狂いがあると点数は6点から0点までとなる。

 

アクセントは音程審査の分野

コンクールの決勝大会に出場するような吟者に音程の大きな狂いは無いだろうと、普通は思うものです。地区予選を通った付加点の意味合いを含め、大抵は最低20点の音程点が付けられているようです。でもここでは、アクセントが「音程審査」の大事な領域の一つだということが軽視されていないでしょうか。吟じられる詩文にあるそれぞれの単語を声にしたときの抑揚。その意味を正確に伝えるための大事な決め事で、財団が苦労して統一化を図ったものです。少し正確に言いますと、アクセントとは「ミ・ファ・ラ・シ・ド」の音階の中で、詩句の言葉の高低関係を指定するものです。

ですから最近の審査の過程で、はっきりとした間違い以外に、疑わしい読み下しがあった時の評価が、まちまちとなっているようです。仮に「上がっていたかな」または「下がっていたかな」と疑わしい場合は一ケ所一点、はっきりとした問違いは一ケ所二点をそれぞれ減点するのが妥当といえるかもしれませんが、疑わしいということは音程が不正確だということです。音階の一番小さい単位は半音ですから、一本では二点の減、つまりアクセント一つ間違えば命取り、と言う場面が往々にしてあり得る。ただここで、皆さんに注意して頂きたいのは、アクセントで高い得点を取ろうとして、音程の差を強く出しすぎると、言葉に本来宿っている言霊(ことだま)を殺すことになる、その辺が難しいです。

 

吟に不向きな裏声

もう一つ、発声技術の上で“どうかな”と感じていること。それは主として女性が「裏声」を多く使う、最近の傾向です。「吟詠は地声(裏声に対する本来の発声による声)で吟じるもの」というのが昔からの通り相場です。裏声は頭部のごく一部にしか共鳴しない張りのない声で、一種の“逃げ”の発声ですから使ってはいけないことになっています。審査規定には「発声の技術について」の審査ポイントに「声量の豊かさ」が挙げられ、さらに「難点の例」として「声量が乏しい、声量がない」と示されています。これは最近のマイクに頼る歌い方に大いに関係があることで、裏声のように前へ出ない音、引き音とも言いますが、これがマイクを使うためにいかにも音量があるように聞こえ、審査する側もうっかりするのでしょう。少壮吟士の中にもマイクを使い過ぎてなんだか演歌のような歌い方になった人がいます。しかしこのことが、コンクールではあまり問題にされないから、吟者のほうも裏声を使うようになってしまいます。

 

もっと本質論を…

審査というのはどんな場合でも難しいものです。人様に優劣をつける仕事は神様の領分かもしれません。ましてや音楽とか芸術の分野は、基本となることのレベルを問われるのと同時に、一般性といいますか、普遍性と、独創性との兼ね合い、そのほかいろいろと幅が広いので、よほどの識見、経験と勇気がないと「私はこう思う」と言えない部分がある。「まあまあよかったんじゃない?」というところに落ちつきやすいのです。

そこで、目で見てはっきりとわかる礼儀作法や、規則によって禁じられていることが守られたかどうかという、誰もが納得しやすい項目が優先することになる。高い音楽的識見をお持ちの場合でも、例えば詩情表現ひとつを取っても、各流会派による解釈の違いということもあるでしょう。なかなか本当の意見を言いづらいことはわかります。それに「和を以って尊しとなす」という気持ちも働くでしょう。しかし吟剣詩舞道憲章にある「斯道を隆盛に導く責任」を果たす上で、音楽的向上は不可欠だ、という観点に立って、純音楽的な議論を、もっともっと活発に闘わせていただきたいと思います。

こうした、審査の雰囲気は、競吟者、ひいては吟詠を志す者の練習心理にも影響を与えているように思います。これについては次号で。

 

 

 

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