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吟詠のさらなる発展のための提言

舩川利夫先生に聞く

吟詠上達のアドバイス―第49回

 

前回の続き。コンクール審査の重点が大きなポイントを逃げていないか。その原因はどこにあるのか、について…

 

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舩川利夫先生のプロフィール

昭和6年生まれ。鳥取県出身。米子工業専門学校卒。箏曲家古川太郎並びに山田耕作門下の作曲家乗松明広両氏に師事、尺八演奏家を経て作曲活動に従事。現代邦楽作曲家連盟会員。若くして全日本音楽コンクール作曲部門一位、NHK作曲部門賞、文部大臣作曲部門賞などを受賞されるとともに平成4年度(第8回)吟剣詩舞大賞の部門賞(吟剣詩舞文化賞)を受賞されている。数多い日本の作曲家の中でも邦楽、洋楽双方に造詣の深い異色の作曲家として知られる。おもな作品に「出雲路」「複協奏曲」その他がある。また、当財団主催の各種大会の企画番組や吟詠テレビ番組の編曲を担当されるとともに、夏季吟道大学や少壮吟士研修会などの講師としてご協力いただいている。

 

コンクール審査の問題点

 

私が最近のコンクール審査を見ていますと「吟詠の音楽性の審査よりも、格好というか礼儀作法の審査に重点が置かれすぎてはいまいか」と首をひねることがよくあるのです。楽屋の話題としては、着物とか紋付の着方、入退場の歩き方、扇子の持ち方、女性の手の組み方などがほとんど、と言っていいでしょう。

普通に考えればコンクールは、吟詠の音楽性の優劣を競うもの。当たり前のことです。つまり吟詠が正しい音程で、美しい声で、よく響く共鳴を伴い、伴奏とよく合って、その詩の情感を上手に表現しているか、といった音楽上の要点をどこまで実現させているかを審査するのが第一です。

その次に問題にするのが、いわゆる“お作法”という順番でしょう。私がこのように申し上げると「もちろん音楽的要素の審査は、きちんとやっています」という答えが返ってくると思います。声質については10点、発声技術は20点、音程は30点、発音は10点、詩心は20点をそれぞれ上限に各審査員が採点して、その結果の集計で順位が決まるのですから、スジは通しているのです。

 

音楽審査が難しい事情

私がここで申し上げたいのは、これら音楽的要素の採点に関しては、ほかの分野、つまり誤読、時間超過、途中でつかえる絶句などに対する仮借ない扱いや、お作法に関する事細かな要求などにくらべ、かなり「ゆるやか」ではないかと思うのです。

何故そう思うかというと、審査の過程で音楽の本質に迫るような議論が滅多に聞かれないこと。本来なら詩心表現の解釈が違えば、親子でもケンカするくらいの主張が欲しいところです。着物の着方、マイクの位置、詩文を持つ高さなど目に見えることについてはとても多いのですけど。それから前に挙げました発声技術などについては、特に決勝大会では「地区予選で好成績をあげている人だから…」といった気持ちが働いているような気がします。

一つの例をあげてみると、音程点の扱いです。点数としては0点から30点までの幅があります。審査のポイントは「音程の確かさ」で、審査の区分とその内容として(出だしまたは途中)において「わずかな」狂いがあるとき、と記されています。

 

 

 

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