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詩舞

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◎詩文解釈

作者の藤野君山(一八六三〜一九四三)は教育者で、青年時代から漢詩に深い造詣を持ち、多くの詩を残している。

この「花月吟」は、日本人の美意識の象徴ともいうべき「花鳥風月」や「雪月花」などから、花と月を愛した心情を詠んだものである。

詩文の内容は『花見の館で琴を弾き、遠くの山の上に昇った月を眺める。また月見の高殿で笛を吹き、幾重にも咲いた花を見れば、花の香りは月に迄とどき、月の光は地上の花を照らしている。君は花の下で月を仰ぎ詩を吟じているが、私は月明りの中で酒を飲みながら花に見とれている。花は咲けばまた散るが、その花を照らす月は、昔も今も変りなく、朝に沈み夕べに昇る月がそれぞれの花を照らしてきた』と対句の形で述べている。

 

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「夜桜」横山大観筆

 

◎構成振付のポイント

詩文上の構成は、前項で述べたように、各句ごとに見事に「花」と「月」を描いている。つまり一句目は琴、二句目は笛、三句目は香(かお)り、四句目は朧夜(おぼろよ)と云ったアクセントがつけられ絵画のような情景が並び立てられ、後半の四句は雰囲気が変って、こうした情景を楽しみながら、酒を飲み、詩を吟じる人達の動きが描かれ、更に自然界不変の花月の美が賛えられている。

ところで振付の段階では、これらの細かな詩文にこだわって、当て振り的な動きを追うよりは、全体のテーマである“花と月”を愛(め)でる心にポイントを置いて、おおらかさを出すことが大切である。また独舞ではなく五人の群舞なのだから、それぞれの人物配置を計算に入れて振付することも大切なポイントである。例えば横山大観画伯の「夜桜」(写真参照)に見られる“朧月夜の花”と云った風景を描くのもよいが“花”と“月”の情景を組み合わせるのも面白い。

群舞の基本形として、全員が同一の性格を持つ場合と、月と花に分かれる場合では舞踊構成は当然異なるから、衣装や扇の組合せを考えて、色々なプランを立てて研究するとよい。

 

◎衣装・持ち道具

演者が若い女性の場合、全員が同じ性格ならば・花を連想させるピンク系の衣装でもよいが、年齢的なこだわりがあれば藤色系、クリーム系などを選べばよい。扇は月と花に分けるなら、月は銀またはクリーム系がよく花は朱やピンク系がよい。男性グループで演じる場合は、グレーまたは黒紋付に仙台平の袴でシックに決めるとよい。この場合の扇は、あっさりした月や桜の絵柄があってもよい。

 

 

 

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