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◎構成振付のポイント

構成は、前項で述べた平家物語りの始めの部分は省略し、馬を水際に進める件(くだ)りから始めるとよい。先ず前奏は馬にまたがって下手から登場し、波打ち際に進む。起句は馬上から風の向き、潮の流れなどを確め、扇の的(まと)を見定める。承句は、使っていた扇を祈りの道具として我が身を潔(きよ)め、多くの神々に祈願の形を見せる。転句は祈り終って目を開くと、波も風も収まった様子、与一は矢を箙(えびら)から抜き取って弓に番(つが)え、満身の力を込めて引きしぼった。結句は一転して今迄の与一の一人称振りから、射落とされた扇の三人称振りとなり、まず瞬時別に用意して置いた紅地の軍扇を開いて空中に投げ上げる。同時に他の扇(銀無地がよい)では波の表現をしながら軍扇も取り上げて、両者で波間にもつれる扇の表情から次第に軍扇は収め、与一が承句で見せた神々への祈りの形で終り後奏で退場する。

 

◎衣装・持ち道具

那須与一の衣装については、平家物語で特にふれてない。従って黒紋付に似合った袴で鉢巻、たすきをつける。扇は前項でも述べたように通常のものは銀無地、軍扇は赤地に旭(あさひ)を型どる金の丸で黒骨がよい。

 

詩舞

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◎詩文解釈

作者の紀友則(?〜九〇七)は平安前期の歌人で、紀貫之の従兄弟(いとこ)に当ると云われているが、貫之らとともに「古今集」の撰者の一人でもある。友則の歌の傾向はよく整っていて美しく、所謂“古今調”で、彼の作品は「古今集」「後撰集」「拾遺集」などの勅撰集に多数収められている。因みにこの作品は「小倉百人一首」にも撰ばれているので良く知られているが、さてこの和歌の意味は『空の日の光が、こんなにのどかな春の日だと云うのに、桜の花は落着かずにそわそわと散っていることよ。』と作者の詠歎の心を感じとることができる。

 

◎構成振付のポイント

さて和歌の前半で述べている“のどかな春の日”は、当然風が吹いてきたなどと云う事もなく、本当にもの静かな春の日である。そこに満開を過ぎた桜の花だけが音もたてずに、その静けさとは反対の現象として、あわただしく花を散らしている現実の光景に、作者が大変感動したのであるから「何故花が散って行くのか?」と云った疑問形で、この作品に接して欲しくはない。作者の紀友則も「さくらの花の散るを詠(よ)める」と詞書(ことばがき)を残している様に、この部分の振付の考え方は大きなポイントであろう。

さて、更に感動の主人公である作者の存在も一つのポイントであるから、以上を念頭に置いて舞踊構成を考えてみよう。前奏では作者が春の野山を訪ねるイメージで(但しこの作者は紀友則そのものでなくても演者によって男女、古代から現代と幅広く人物像を作ることが出来る)一回目の和歌前半は、その天地に広がった春の気分を、扇を使って上品に四方指しなどの形や、舞楽の舞いの型を演じる。同じく後半は、始めて作者が体に桜の花びらを感じた芝居心を見せ、その足もとに散り積もった多くの花びらを手に取って持て遊びつつ空を見上げて感動する。二回目(返し歌)からは二枚(二本)扇の手法で、やや自由な気分で抽象的な動きを考え、歌の最後辺りで作者に戻り、感動を残して後奏で退場する。

 

◎衣装・持ち道具

着付は春にふさわしい淡い色目のものと、調和のとれた袴を選ぶ。扇も衣装との調和を考えて、つや消しの金・銀や、桜の花びらを散らした絵扇などを使用する。

 

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紀友則(絵画)

 

 

 

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