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これは、とても深刻な問題だと思いますよ。高齢化はどこも共通で、日本の伝統芸の世界はみな同じ悩みを抱えています。若い人をもっと入れたいけれど、その妙薬が見つからない。吟界も正直なところ頭が痛いですね。かといって悩んでばかりはいられない。なんとかして若返りを図らないと…

 

吟詠家にとって良好な循環図

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吟力工場と老化防止

そこで、二十一世紀の吟界を活き活きとさせるために、今の現役の皆さんに、是非ともひと頑張りしていただきたいと思うのです。これから申し上げることは特別に新しいことではありませんが、あなたが“必要だ”と納得して、定期的に実行すれば、あなた自身とご家族、それに吟界も幸せになるという「一石三鳥」の案です。

早い話が、仮に外部から若い血を入れるチャンスが少なくても、自分たちが年を取らなければいいじゃないか、ということです。この話をすると、笹川創始会長の「六十歳を取って捨てる」逸話を思い出す人も多いかと思いますが、私の案は現実的で、しかも私の専門分野である“吟の音楽的向上”に役立つこと、もちろんなのです。

(四月号で)吟詠は肉体芸術の一つだという話をしました。立つ姿勢を安定させ、正しい腹式呼吸をし、よく共鳴する体を自分で作っていくことで吟の技術が充実してくる。そのためには、体を軟らかく、また強くしないといけない。そこでストレッチングや、軽い体づくり運動がとても効果があるということ(五、六月号)。

話はここから発展するのですが、このあとは私の専門分野を少し逸脱します。健康に関する常識として聞いてください。つまり、吟詠上達の目的で実践する運動が、そこだけに留まらず、とてもよい循環をもたらしてくれる、ということを、この際よく心に留めていただきたいのです。(吟詠家に良好な循環図参照)

私が5月号で「人体の器官は、使えばその働きが向上し、使わなければ衰える」という“ルウの法則”を例に引いたのを覚えていますか?人は年齢と共に老化する。誰も避けられない。しかしそれは、身体を適度に動かすことによって遅らせることができる。つまり自分の体の老化を遅らせ、ある程度防止できる訳です。これが二番目の効果。

 

自分と吟界、両方の活性化

体づくりで発声の基本が改善され、吟詠そのものが上達すれば、それだけ心の満足が大きくなる、ということはストレス解消に役立ちます。前の老化防止と相俟って、自分自身が全体として活性化される、これが第三の効果です。

そして総合的な結果とし、皆さんの吟詠レベルが向上し、周囲の人に吟詠のよさを再認識させることで、吟詠界全体が活生化される、これが最終的な効果になります。

理屈としては、お分かりいただけたと思います。あなたはこれについて「言うは易く、行うは難し」と最初からあきらめムードではありませんか?もしそうなら、まだまだ認識が足りない、と言わざるを得ません。どうぞ、ご自分とご家族と、そして吟詠界の来たる世紀の幸せを、除夜の鐘とともにじつくりと考えて、ストレッチなどから始めていただきましょう。

さて、新年号では読み下し詩文について、子音(障害音)と母音(無障害音)との区別、発声の仕方についてお話する予定です。

 

 

 

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