日本財団 図書館


吟詠のさらなる発展のための提言

舩川利夫先生に聞く

吟詠上達のアドバイス―第45回

 

人の声は、嬉しければ弾み、悲しければ沈む、響きの内容まで変わるものです。吟詠では詩情の内容に伴う声の質の変化が乏しいようです。極端な場合、とても快活な詩を、とても 暗い音質で吟じていたりします。それらの基本について考えましょう。

 

005-1.jpg

舩川利夫先生のプロフィール

昭和6年生まれ。鳥取県出身。米子工業専門学校卒。箏曲家古川太郎並びに山田耕作門下の作曲家乗松明広両氏に師事、尺八演奏家を経て作曲活動に従事。現代邦楽作曲家連盟会員。若くして全日本音楽コンクール作曲部門一位、NHK作曲部門賞、文部大臣作曲部門賞などを受賞されるとともに平成4年度(第8回)吟剣詩舞大賞の部門賞(吟剣詩舞文化賞)を受賞されている。数多い日本の作曲家の中でも邦楽、洋楽双方に造詣の深い異色の作曲家として知られる。おもな作品に「出雲路」「複協秦曲」その他がある。また、当財団主催の各種大会の企画番組や吟詠テレビ番組の編曲を担当されるとともに、夏季吟道大学や少壮吟士研修会などの講師としてご協力いただいている。

 

明るい声と暗い声

人が歌う声は、例えば花子さんと好子さんが同じ8本で歌っても同じに聞こえることはありません。声帯が違い、体型や骨格が違い、発声の仕方が違うので、音に合まれる倍音(基本になる音の振動数の整数倍の振動数を持つ音)の量と種類が、人それぞれ異なり、出る声が違ってくるのです。従って声の種類は人の頭数(あたまかず)だけあることになり、声から受ける情感もその分だけ存在することになります。吟詠のように声を使って音楽を演奏するとき、詩文が持つ情感と吟者の声がピッタリと合っていると(発音、アクセントなど他の要素はありますが)“いい吟詠だナ”と感じるのです。

吟詠を音楽として、より高度なものにしていく上で、声が持つ情感、性質をよく知り、詩情に応じて使い分ける技術を身につけることが非常に大切であることはお分かりになると思います。

声の質を整理するため、明るい声と、暗い声に大きく分けて考えて見ましょう。これを文字で表すと、聞いていて元気、快活、希望、明朗さ、などを感じさせる声が“明るい声”。逆に陰欝、悲しみ、落ちこみ、などを感じさせる声が“暗い声”です。

古典的な西洋音楽では、使う音階(音を高さの順に並べたもの)によって、明るい、暗い、を際立たせて使い分けています。ドミソを主とした音階の「長調」が明るい、ラドミが主音の「短調」が暗い情感を作りだします。(音階の図参照)長調の気分をよく表しているものとしては、行進曲(マーチ)を思い浮かべるといいでしょう。(葬送行進曲はいけません)ブラスバンドで演奏される勇壮なマーチを聞いていると、気分が高揚するのを感じますよね。洋楽でなく、日本の歌から捜すと、これだ、というのがなかなか見つかりません。水前寺清子の「三百六十五歩のマーチ」、これは行進曲ではありますが、完全な長調の歌い方と言い難い部分があります。

短調の見本は日本の歌に沢山あります。「荒城の月」「さくらさくら」から「ああ玉杯に花受けて」など旧制高校の寮歌、最近の演歌では「孫」も。日本人は短調の歌が好き、一種の国民性といえるかもしれません。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION