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吟詠のさらなる発展のための提言

舩川利夫先生に聞く

吟詠上達のアドバイス―第43回

 

音声の強弱(フォルテ、ピアノ)の続き。

吟詠表現の芸域を広げる観点から考えてみます。

 

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舩川利夫先生のプロフィール

昭和6年生まれ。鳥取県出身。米子工業専門学校卒。箏曲家古川太郎並びに山田耕作門下の作曲家乗松明広両氏に師事、尺八演奏家を経て作曲活動に従事。現代邦楽作曲家連盟会員。若くして全日本音楽コンクール作曲部門一位、NHK作曲部門賞、文部大臣作曲部門賞などを受賞されるとともに平成4年度(第8回)吟剣詩舞大賞の部門賞(吟剣詩舞文化賞)を受賞されている。数多い日本の作曲家の中でも邦楽、洋楽双方に造詣の深い異色の作曲家として知られる。おもな作品に「出雲路」「複協奏曲」その他がある。また、当財団主催の各種大会の企画番組や吟詠テレビ番組の編曲を担当されるとともに、夏季吟道大学や少壮吟士研修会などの講師としてご協力いただいている。

 

音の強弱で物語を組みたてる

吟詠は時間芸術のひとつです。と言うことは、絶句を例に取ると、120秒の限られた時間の中に、吟者の訴えたい思想の全てを創造的に、美しく織り込まねばなりません。詩文の持つ情景、情感などをしっかりと解釈した上でそれをどのように表現するか、詰まるところ“表現技術”が豊富かどうかにかかってきます。自分では解っていてもそれが聴衆に伝わらなくては意味がありません。それに必要なものが技術であり、言い換えれば、吟者の芸域の広さで決まってくる訳です。

詩文の解釈とともに、立つ姿勢、発声法、発音(アクセント)などの基本が大切であるのは勿論ですが、絶句なら四行のストーリーに音声の強弱を、情感の高まり(静まり)に合わせて配分することで劇的な効果を与えることができる。その意味で、ピアノとフォルテの使い分けは非常に大事なことです。

これからお話することは、指導者クラスの人は“決まりきったこと”として、さほど目新しいこととは考えず後輩に教えていると思います。初級者が詩を物語として組み立てる時のヒントとして述べておきます。四行詩を熟読玩味して、全体の構成を決めます。訴えるものが動的か、静的かなどで全体のトーンが決まります。大きなヤマは何処かが解れば全詩文を通しての強弱が決まるでしょう。次は起句、転句など一文節の中でどの程度の強弱をつけるのが効果的かを検討します。と同時に一語一語のアクセントの明瞭化と全体の流れとの兼ね合いをも考えねばなりません。つまり詩全体の骨格を決め、クライマックスヘ向けての波動、語の音心味も余すところなく伝えることが必要です。

 

主なテクニックと注意点

前回、フォルテとピアノの基本をお話しました。テクニックとしては、この二つの“時差”を使った組み合わせが幾つかあり、比較的よく使われるものを取り上げておきます。

▼徐々に強く(クレッセンド)=pから

すこしづつ音量を上げてf(または少し強いmf-メッツオフォルテ)までもっていく。腹筋で支えた弱い音声、いくら小さくても音には芯が無ければ通りません。

 

 

 

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