期待感に包まれた、満席の会場。
早朝から会場周辺は高校生や関係者、またこの日を楽しみにしていた多くの愛吟家、剣詩舞愛好家が詰め掛け、慌(あわただ)しい雰囲気の中にも、会場は高まる期待に包まれていました。
九時三十分、予定通り開会式が始まり、司会の静岡県立韮山高等学校の山口拓也君と、同県立三島北高等学校の菅沼恵さんが元気に挨拶し、つづいて主催者を代表して吟詠剣詩舞専門部長、岩手県立軽米高等学校・中野新一校長が挨拶のために登壇しました。また、生徒代表では実行委員長、清水市立商業高等学校の小林奨君が堂々とした挨拶をしました。さらに来賓挨拶では小池政臣三島市長が、日本の伝統芸術である吟詠剣詩舞の大会を三島市で開催できる喜びを語られました。講師紹介では財団法人日本吟剣詩舞振興会の阿部昭馨評議員が紹介され、阿部先生は大会の講評を担当することになっていました。開会式の最後は出演者全員による大合吟「富士山」が披露され、舞台は発表大会へと移りました。
例年以上に多くの参加、充実の内容。
今年の参加校は百二十四校、参加者数は男子七十八人、女子二百四十九人、合計三百二十七人で、例年以上に多くの高校が参加しました。それだけ吟剣詩舞に親しむ若人が増えているということで、これからの吟剣詩舞界にとっては嬉しい数字といえるでしょう。また、女子が多いのも今年の特長的な点でした。
発表大会の一番手は昨年の開催地、山形県の構成吟「駿河の国で 出羽の剣士・扇舞う」が披露されました。開催を経験しているだけに、舞台も落ち着きのある、立派なものでした。つづいて、鳥取県の構成吟「つわもの共が夢のあと―武士を詠ず―」、奈良県の構成吟「戦国の武将を詠ず」、石川県の剣舞・詩舞(合同演舞)「落月の賦―加賀・能登の古戦場をゆく」、富山県の独・連吟「本能寺」、福井県の構成吟「越のくにより」が発表されました。どの高校もよく練習を積んできたのか、吟詠も剣詩舞もしっかりとしており、聴き応え見応え十分で感心させられました。
昼食、休憩をはさんで午後は岩手県の構成吟「肥の国賛歌」から始まりました。次が千葉県の構成吟「房総の剣・その四」、つづいて神奈川県の剣詩舞「鳴呼、七里が濱哀歌」、栃木県の構成吟「東照宮」、兵庫県の独吟「稗搗の歌」、高知県の剣舞「越中懐古」、岐阜県の剣詩舞「早に深川を発す」、大分県の構成吟「広瀬淡窓―旅の詩」、岩手県の構成吟「みちのく岩手」、岡山県の構成吟「瀬戸の潮騒」、愛知県の構成吟「頼山陽」、山梨県の構成吟「武士道 義の心」、愛媛県の構成吟「李白を舞う」、福岡県の構成吟「福岡歴訪」、そして最後は地元静岡県の構成吟「悠久の彼方に―富士をめぐって―」でした。吟剣詩舞の題材には、自分たちの故郷をうたったものが多く、それぞれの土地柄や風土、歴史などを味わうことができました。また、午後の演目も午前中と同様によく練習がなされており、学生たちのこの日にかける思いが伝わってきました。そして、最後の静岡県が終わると、場内から割れんばかりの拍手が沸き起こり、舞台の出演者たちも、やり遂げた嬉しさで満面に笑みを浮かべていました。
閉会式では阿部昭馨財団評議員が講評に立ち、何度となく感動をあたえてくれた学生たちに感謝の言葉を述べていました。また、次年度開催県である福岡県を代表して、福岡県立嘉穂東高等学校の松岡教知校長が、静岡県に負けない立派な大会を開く決意を力強く宣言しました。
今年は多くの参加校、参加者に見られるように、吟剣詩舞と取り組む若人が増えていることを実感した大会で、とかく退潮が取りざたされる吟剣詩舞界にとっては、なんとも心強い大会ではなかったでしようか。彼等がこれからも吟剣詩舞と関わってくれることを期待したいものです。