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吟詠のさらなる発展のための提言

舩川利夫先生に聞く

吟詠上達のアドバイス―第42回

 

音量調節の仕方の続きです。聞いていて気持ちがいい強声、弱声はどのようにして作られるのでしょう。

 

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舩川利夫先生のプロフィール

昭和6年生まれ。鳥取県出身。米子工業専門学校卒。箏曲家古川太郎並びに山田耕作門下の作曲家乗松明広両氏に師事、尺八演奏家を経て作曲活動に従事。現代邦楽作曲家連盟会員。若くして全日本音楽コンクール作曲部門一位、NHK作曲部門賞、文部大臣作曲部門賞などを受賞されるとともに平成4年度(第8回)吟剣詩舞大賞の部門賞(吟剣詩舞文化賞)を受賞されている。数多い日本の作曲家の中でも邦楽、洋楽双方に造詣の深い異色の作曲家として知られる。おもな作品に「出雲路」「複協奏曲」その他がある。また、当財団主催の各種大会の企画番組や吟詠テレビ番組の編曲を担当されるとともに、夏季吟道大学や少壮吟士研修会などの講師としてご協力いただいている。

 

最強音から最弱音まで 美声は共鳴から生まれる

強い声(フォルテ=f)や弱い声(ピアノ=p)の息の調節は腹式呼吸で行うことが理解できました。次は“響き”で調節することの勉強です。

声が出る仕組みを簡単に復習しておきましょう。人の声帯はノド仏の辺にある一〜一・五センチの器官。そこへ息を通すことによって音の振動が作られる。息を強くあてても声帯の振幅には限度があります。強すぎれば振動はかえって乱れるでしょう。出る音は小さなものです。それに響きを与え、増幅してフォルテにまで強めるのが“共鳴”の働きです。共鳴とは声帯で作られた振動、音波が、ノド、口、頭部、胸、腹などの器官・筋肉に、同調した振動を起こさせ、全体としてよく響く大きな音に成長させることといえます。楽器のピアノでいえば、弦をハンマーで強く叩いても、周囲に何も無ければただ弦が捻っている程度、それに金属フレーム、響盤、木製の枠などが強く共鳴してボリウム豊かな音になるのと同じです。そのとき響盤や木枠などに囲まれた微妙な空間が、共鳴した音波を往復させ、増幅させている、人でいえばノド、口腔、鼻腔、額あたりの前頭洞、さらに胸郭などが、その空間として役立っているわけです。

ピアノでは弦とそれを支えるフレーム、響盤の素材、さらに枠を作っている木の種類、肉質の密度、年輪の間隔、乾燥の度合いなどの違いによってその楽器独特の音色が作られるということです。人間で言えば音程により声帯の緊張度を的確に調節できる筋肉の鍛練、それを受けて柔軟に同調し共鳴できる腹、胸、背中などの筋肉の鍛練、加えて“どこに響かせるか”をかなり意識的に操作できる。これらは皆、その人の意思で向上が可能。ここが前にお話した名器は努力で作られる、につながるのです。

 

高音部のフォルテは頭声で

音量の大小には無限の広がりがあるのですが、普通に声を出すときの音量は【図】のように表示されます。

 

 

 

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