日本財団 図書館


君の勲は天下にひびきわたるであろう。赫々たる武勲をたてて凱旋し、軍状を陛下に奏上申し上げる日も近いことであろう。

次に明治七年、日本が台湾へ遠征したことに清国が抗議して来たのを、単身大久保が清国の北京へ紛糾を解決するために全権辨理大臣として出発した時の詩がある。先ず初めに出発船中での決意の詩…

018-1.gif

<訳>国運の興隆は必ず時機、機運というものがある。明治維新より早くも十年になった。国運は順調に延びているが、この度清国の問題がおき、困難に直面した。然し正義というものは何よりも強い。日本の正しい立場を地球上に宣布して皇基も確固たるものにするために我は清国へ行くのである。

018-2.gif

清国の協議は決裂しそうに見えたが、大久保の努力によって日本が有利の状態で解決したので、重任を果たした大久保は北京をあとに通州に行って船旅を楽しもうとして船に乗って賦したのがこの詩である。

<訳>自分は陛下の勅命を奉じて北京をさして乗り込む時は黒煙が幾重にも重なりあって幕がたれこめているように思われ、その中を鯨波を蹴って進むという実に我ながらすばらしい意気込みであった。

然るに今は和議が整い、こうして通州を下る。我は船窓のところに横たわってうとうとと居眠りをはじめている、と詠じているのである。

清国からの帰途、大久保は台湾へ立ち寄って色々に視察をしている。その時高尾庁の亀山で皇軍をねぎらった詩である。

018-3.gif

<訳>大海から波の高鳴る声がザアザアと聞えてくる。月は皓々と月下の陣営を照らしている。

この情景を前にして誰か萬里遠征の旅をした情の切なるものを覚えない者があろうか…。一人寝床についたが眠られぬまま、家に還った夢を見てしまった。そのうちに折しも中宵ラッパの音が聞えて来た。

大久保利通が赤穂義士の伝記を読んで感激し、次のような絶句を作っている。

018-4.gif

<訳>赤穂義士の如く仇を報ぜんとして恥をよく忍び、時節到来の日まで生を全うするのが全く倍の誠忠である。赤穂の義士達は城に集まって血をすすり合って固く同盟を結んだ、この義士四十七人の盟約は金石よりも固い、死すこと処するが如しというのは彼等のことを言うのである、とほめているのである。

大久保利通という人は、幾つになっても向学心が強く、常に自己を反省し、自分よりもすぐれた人を師にしようとしている立派な政治家である。

018-5.gif

<訳>愚かな人間(迂生)私はいささかも功労をたてていない身であるのにみだりに朝廷で御恩恵を辱うして慚愧(ざんき)にたえない。いずれそのうち、立派な賢者を見出して教えを乞い年来の希望をとげたい。それにしても深山のどこに英雄がいるのであろうか。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION