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前月号で述べた新舞踊の場合の伴奏音楽では「歌謡曲」や「演歌」など、絶えずテレビやラジオで聞かされる曲が多いから、大衆の親近感が比較にならないのは致し方がないが、何んとかして新剣詩舞になじんでもらえる伴奏音楽を探し出したいと云うのが本音である。

さて前置きが長くなったが、ここで初心者向きの新剣詩舞用伴奏音楽の提案を試みたい。先ずその一つは剣舞用として日本の「和太鼓」を編曲し、剣舞の基本形の振り(型付)に合致させる方法である。和太鼓の曲は、リズムもテンポも変化に豊んだものが多く、既成の曲ではポピュラーな「助六太鼓」やバラエティーな組曲になっている「御諏訪太鼓」など音源は豊富である。次に、ややレベルは高くなるが同類の提案として邦楽への「お離子」の利用である。本来は能の伴奏楽器である、笛、小鼓、大皮、太鼓などによるものだが、その曲のレパートリーは大変多く、現在CDなどで聞くことが出来る。

 

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鈴木凱山社中の剣舞

 

ところで太鼓系のリズム中心では、剣舞表現の例えば残心などで不都合なこともあるから、更に伴奏音楽として提案したいのが、能管、篠笛、尺八などの管楽器の協力である。これらの楽器では「一声」「田舎笛」「むらいき」など、聞けばおなじみの施律が数々あり伴奏音楽としての魅力を増幅するだろう。

次は詩舞の基本形の振りを演じるための初心者向きの伴奏音楽を提案しよう。

よく「日本舞踊」と「詩舞」はどう違うのかと言った質問を受けることがある。反対にそう言う質問をした女性に対して『どこが違うと思いますか』と聞いてみると、多くの答えは、「男も女も袴をつけた着物姿が大変すっきりして、特に歌舞伎的な衣装をつけた日本舞踊とは異なる魅力を感じる」である。この他にも「小道具は扇だけですっきりしている」とか「舞台装置も簡略化されている」と言った意見もあるが、「日本舞踊の様な伴奏音楽の派手さがない」との指摘もある。要約すると、詩舞は見た目の上では評価されていても、伴奏音楽としての吟詠の評価はあまり高いとは思われない。

そこで詩舞の伴奏音楽として、従来の吟詠を否定するわけではないが、初心者用音楽として、例えばなじみやすいメロディーを持った唱歌の「荒城の月」「青葉の笛」「今様黒田節」等々を使って詩舞の手ほどきを試みたら如何がなものであろう。勿論こうした試みの曲は唱歌に限らず現代曲でも、またやさしい創作歌曲でも歓迎し、詩舞をおどる人達に日本的な施律に積極的になじむ方法を見出したい。

 

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青柳芳寿朗社中の詩舞

 

さて「剣詩舞」とは吟詠等を伴奏にして舞う舞踊と言った現代剣詩舞の姿勢が変ることはないと思うが、今日、急務とされる剣詩舞の大衆化を計(はか)るうえで、その伴奏音楽の大衆化に知恵をしぼって行きたい。

次号では更に新しい剣詩舞の展望を試みてみよう。

 

 

 

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