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剣詩舞の研究―石川健次郎

 

「新剣詩舞のすすめ」(2)

 

現代の稽古ごと

二十一世紀に求められる剣詩舞のイメージを探求するについてはいろいろな角度で分析できると思うが、最初からあまり高望(たかのぞ)みしないで、新しい剣詩舞を“習いごと”(稽古ごと)のレベルで考えることから始めてみよう。

現代の大衆文化と云われるもので、庶民が好んで習うものは、よく新聞雑誌の広告で目にする「カルチャーセンター」や「文化センター」の教習科目であろう。一つ一つ並べ立てたら大変な数になるが、その中には邦楽系の教室として「端唄小唄」「長唄」「箏曲」「謡曲」に加えて、我が「吟詠」も参加していたが今や次第に影が薄い。また舞踊系の教室では「日本舞踊」「上方舞」「民謡舞踊」から「かっぽれ教室」など迄あり、「新舞踊」なども大変人気度が高い。

それに反して、剣舞、詩舞のこの種の教室があまり歓迎されないのは如何なる理由によるものなのであろうか。

まず考えられる一つに、現代人の好みから云って楽しい芸能のイメージが薄い点で、別な言い方をすれば指導者の堅苦しさが入門者を疎外させているのではないだろうか。そのためには従来の教授法とは異なったユニークな方法を考え出して欲しい。特に若い人達にとっては“カッコ良さ”も大切であろう。

次に剣詩舞が楽しい芸能であるためには、剣詩舞の魅力を充分に引出して、稽古をする人達だけではなく、見る人達にとっても、それが身近かなものとして、例えば色々な集会のアトラクションとしても、内容が理解され、楽しんでもらえる「愛される芸能」として、もっともっと大衆の前に姿を見せて欲しい。

 

魅力ある新剣詩舞の内容

まず、剣詩舞は基本的には古典芸能であっても、二十一世紀に向かって新しい魅力を追求するための具体的方法論を考えなけれまならない。

検討の順序は、舞踊表現の魅力探求の意味で「演技」「振付」から進めるとして、前月号でも述べた「新舞踊」の場合と同様に、現代人の感覚として習いやすく(覚(おぼ)えやすい)無理のない動作の振付を心がけるべきであろう。従って矛盾の多い従来の形にだけこだわらず、新しい表現技法としての振付をどんどん考え出すことである。従来の振付が兎角ワンパターンで、例えま数のことになると何んでも指を折り数えると言った習慣からは早く脱却し、その詩文の意味にふさわしい振付を色々と考えて置いて、最も流れに沿ったものを使うようにしたい。

演技の魅力には、演者の個性を活かした、一寸(ちょっと)した仕草(身振り)が効果を上げることもあり、また具体的な振付にしても、あまりにも当て振りで馬鹿馬鹿しいものになったり、反対に微笑ましくなったりもする。また具体的な振りが付かない場合は抽象的な振りでも良かろうとする例もあるが、これも初級の振付で魅力のあるものは大変難しいので、簡単な抽象動作のくり返しで効果を上げることができる。

次にこれから剣詩舞を習いたいと云う人達に対して、新剣詩舞が魅力的な印象を与えるための方法論として提案したいのは、新剣詩舞の伴奏音楽である。

 

剣詩舞の伴奏音楽

剣詩舞の初心者から聞かされる苦情の一つに、伴奏の魅力の無さを指摘される。つまりどの吟題も音楽的な変化が少なく、どれもが同じように聞こえて、曲自体から内容のイメージが掴めない。また別な意見として、詩文の文句が難しすぎて意味がわからない、それに日常的でないことまま聞きとりにくい、などである。

確かに吟詠になじみの少ない剣詩舞初心者にはもっともな意見であろうが、もっと困るのはこれから剣詩舞を始めたいと云う人達に対して、音楽の魅力の無さが原因となる拒否反応である。

 

 

 

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