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さらに一般船舶、特にタンカーと旅客船の設計過程で、火災安全、衝突及び座礁に対する船体損傷と保全性の検証にリスクアセスメントあるいは信頼性解析の手法の利用が進められていることを、米国の海洋汚濁防止法(OPA90)制定の過程、及び欧州における大型客船の安全性の評価を引用して紹介した。海洋構造物の分野では、北海油田に関する英国及びノルウェーの規則に関連して、個別海洋構造物に関する定量的総合安全性評価(Safety Case)をその設計の段階で行うことが義務付けられており、構造物全体及びこれを構成するすべてのシステムについて、故障・損傷の確率とその結果及びその連鎖と引き起こされるリスクについて、定量的かつ組織的に解析する手法が開発されていることを説明した。また、このような定量的総合安全性解析・評価の費用は、個々の海洋構造物に対して1億円のレベルであることも紹介した。今後の指標としては、リスクアセスメントの利用に関する指針を構築すること、リスクアセスメントに人的要因を合理的に盛り込む手法を開発すること、及び船舶海洋分野におけるリスクアセスメントに関する研究・教育・開発体制を確立することを提案した。

指名討論者の大和教授(東大)は、日本で推進されている船舶に関する総合的安全性評価の研究成果(日本造船研究協会RR42、RR49等)を引用して、リスクを定量的に把握するために、現在は専門家の主観的判断に頼らざるを得ない部分が多々ありそこに恣意性が入り込む危険性があることを指摘し、今後はシミュレーションの利用、事故に関するデータベースの構築と利用、船舶設計データの利用、及び人的要因の取り入れ手法と船舶海洋分野における合理的なリスク定量化の手法の確立が必要であることを指摘した。

一般討論では、船舶に関するリスクアセスメントの結果と船舶保険との関連、リスクアセスメントの結果自身の信頼性とその評価方法、客観的な専門家判断の求め方、IMOにおけるFSA暫定指針制定の経緯と利用の現状及び将来の動向等が議論された。

当委員会はISSC 2003においても、米国New YorkのWeb InstituteのK. Tikka教授を委員長として、主に船舶構造に関するリスクアセスメントに集中して調査する方向で継続することとなった。(吉田公一)

Specialist Committee V.2 Structural Design of High Speed Vessels

本委員会は委員長のDr. B. Hayman (ノルウェー)以下、Mr. S. Fe. Rraris (伊)、Prof. M. K. Hakala (フィンランド)、Dr. O. H. Kim (韓)、Mr. T. Roberts (豪)、Mr. E. Thinberge (仏)、遠山氏(三井)、Prof. P. Yang (中)の計8名の委員から構成されている。

報告の項目は以下の通りである。

1. Introduction

2. Statistics on Vessel Types and Parameters

3. Classification Society Rules and Other Regulatory Aspects

4. Environmental Conditions and Operational Limits

5. Loads

6. Structural Response and Strength

7. Fluid-Structure Interaction

8. Design Considerations for Production

9. Design Procedures and Uncertainties

10. Conclusions and Recommendations

Prof. Y. S. Wu (中)の司会の下、委員長Dr. B. Haymanによる概要報告とDr. H. Nordhammar (スウェーデン)による指名討論が行われた。Dr. H. NordhammarはStena Rederi ABに属しており、船主/操船者側の立場からの以下のような見解は貴重なものであった。高速艇の場合、僅かな艇体重量の違いが性能に重大な影響を及ぼすため、荷重の評価は重大である。今なお、荷重の発生メカニズムの物理的な理解は十分ではない。設計荷重の算定が主として船級協会毎に異なる経験式に基づいて行われており、要求される板厚等に差が生じている現状を考えると、設計荷重の表現や考え方が今後標準化される必要がある。実船計測は多大な費用の発生に問題はあるが、今日の計算ツールの検証と改善のためには極めて重要であり、より多くの実船計測プログラムが計画されるよう設計者/建造者/操船者の更なる努力が必要である。双胴船のウェットデッキは衝撃荷重を考慮すると重量が増加するために通常、操船制限で解決されて来たが、それにも拘わらずスラミングは発生し、しばしば損傷をもたらしている。高出力ウォータージェットのパルス状圧力変動は多くの艇で局部的な疲労荷重の発生原因となっているが十分解明されておらず、今後の解明努力が期待される。構造材料としてのアルミニウムは特に溶接部の疲労に対する感度が高く、補修に伴い再溶接を繰り返す度に劣化するという問題もある。Parallel Discussionでは会場からDr. C. Fang (台)が双胴船の斜波中での流体力の解析例と模型計測例を紹介し、Prof. P. Temarel (英)とDr. 0. A. Hermundstad (ノルウェー)は双胴船の斜波中での流力弾性問題への2.5D理論の応用、Prof. J. J. Jensen (デンマーク)は機関とウォータージェットによる疲労損傷、吉田氏(蟻装研)はフェリーが波浪衝撃を受ける際に搭載車両が車両甲板に及ぼす局部荷重の重要性に関しそれぞれ活発な討論を行った。次期委員長にはMr. S. Ferraris (伊)が選出された。(遠山泰美)

 

 

 

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