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科学者たちも海色を基に植物プランクトンを見つけることで海流が植物の生長に必要な栄養素をどこへ運んでいるかを知ることができる。更に、植物プランクトンを見れば汚染物質によって毒され、植物の生長が阻害されている水域はどこか、あるいは微妙な気候の変化(たとえば、高温・低温、あるいは塩分の濃淡変化など)によって植物プランクトンの生長が影響を受けている水域はどこかなどを知ることができる。植物プランクトンの成長は特定の環境条件に深く依存しており、環境の変化には敏感に反応する。つまり、植物プランクトンは環境変化の一次指標と考えることもできる。

 

(3) 炭素

植物プランクトンには食物連鎖の第一リンクとしての役割のほかに海洋化学上の重要な役割がある。大気中の二酸化炭素は海中の二酸化炭素とバランスを保っている。光合成中の植物プランクトンが海水から二酸化炭素を取り込み副産物として酸素を放出すると、海水は新たに大気中から二酸化炭素を取り入れる。ということは、植物プランクトンが減ると、大気中の二酸化炭素が増えるという結果になる。

植物プランクトンは死ぬときも二酸化炭素のレベルに影響を与える。陸上の植物と同じく植物プランクトンも炭素を含有する物質からできている。死んでしまった植物プランクトンは海底に沈み、その体内にあった炭素も海底に留まり、あとから海底に沈んでくる他の物質で覆われる。

こうして海は「シンク」つまり地球上の炭素処理場の働きをする。仮にシンクとしての働きができないとなると_酸化炭素は大気中にたまってしまう。他方で、陸上の植物や土壌も地球炭素の「シンク」としての働きをしている。しかしこのような陸上の植物や土壌は焼却や分解作用によって炭素を再び二酸化炭素に変えて大気中に戻してしまうことが多い。

森林の伐採は二酸化炭素を吸収できる植物を減少させ、大気中の二酸化炭素蓄積を助長する。大気中の二酸化炭素は「温室効果ガス」となって地球の温暖化をもたらす。二酸化炭素の供給源としては有機物質(樹木等)の分解作用や、動物・人間等の呼吸作用、火山活動、さらには人間活動の中で行われる化石燃料や薪などの燃焼等がある。

世界の海や陸地がどれほど大量の炭素を吸収できるかはまだ誰にも分からない。増加をつづける大気中の二酸化炭素に地球環境がどのように適応していくのか、それも分からない。科学者たちは今その答えを求めて地球上の植物プランクトンの分布や変化について衛星からの海色イメージやその他のツールを使って調査研究を進めている。

 

 

 

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