例えば、海の一次生産性は海中深く下方まで及んでいるが、CZCSの衛星イメージでは海水の上層水部分のクロロフィル濃度しか推定できないという問題である。とはいえ、海洋学者の多くは今後の海洋フィールド調査には衛星海色測定は欠かせなくなると考えている。
7) 地球の炭素サイクル
1990年代に始まった極めて重要な学術研究事業の一つに地球変動研究計画がある。地球の気候と生物地球化学的サイクルとの関係を調べることもその中に含まれる。特に我々が関心を寄せるのは、地球上の炭素サイクルとそのサイクルが人間の活動によってどのように変わってきたかと言う点である。
化石燃料が燃焼すると大気中に二酸化炭素(炭酸ガス)を放出する。それ故、産業革命以来今日まで大気中や海水中の二酸化炭素は着実に増加の一途を続けてきた。また、同じ期間に森林破壊も進み陸上植物の相当部分が失われた。その結果、陸上植物による大気中の二酸化炭素除去率が大きく低下した。
気候モデルによる現在の予測では、二酸化炭素やその他の温室効果ガスの大気中濃度の上昇につれて、地球上の温度も次の半世紀中に摂氏1〜5度上昇すると考えられる。地球温暖化の影響を正確に予測することは困難だが、少なくとも世界の大半の地域で降雨パターンや土地利用状況に大きな変化をもたらすことになろう。
化石燃料の燃焼によって大気中に放出される二酸化炭素の約半分は海に吸収されると考えられる。しかし、新たに海中に入ってくる炭素が落ち着く先の海のシンク(sink)については実のところまだ良く分かっていない。しかも、見かけ上の海の炭素吸収率についてもまだ十分満足の行く説明はなされていない。このような不確定要素があるたけに、地球の炭素サイクルに関しても植物プランクトンの役割りが注目される。
年間に産出される一次植物プランクトンのほとんどは動物プランクトン(エビに似た甲殻類およびその他の微小海洋動物)や小魚に食べられてしまう。動物プランクトンが食べなかった残りの植物プランクトンは良く光の当たる有光層の下へと沈み込む。不断に海底に降り注いでいる種々の微粒子物質の雨にもこうして沈んでいく植物プランクトンが含まれている。
死んでしまった植物プランクトンの殆どは海底に到達すると最終的に動物の餌となるか、あるいはバクテリヤによって分解される。しかし、ごく一部はそのまま残り、それに含まれていた有機炭素も(二酸化炭素として排出されることも無く)そのまま残る。このような残留炭素は海底堆積物中に確実に増えている。つまりそれは地球の炭素サイクル中の重要なシンクの一つと考えられる。