これほどダイナミックで大規模な海洋生産性の変動を測定するには従来の海洋観測船のスピードは余りに遅すぎる。船舶搭載の機材で地球全域を調査することは不可能である。つまり、地球全域の海洋生産性を迅速に調査するには衛星による観測以外に方法は無い。
海色についての最初の(しかも長期的衛星観測としてはこれまでで唯一の)宇宙からの観測は1978年から1986年にかけて、NASAの研究用観測衛星Nimbus-7号に搭載した「沿岸水域用カラー・スキャナー:CZCS」(=Coastal Zone Color Scanner、ラジオメータの一種)の可視光および赤外スペクトルチャンネルを使って実施された。当初、概念実証用として名目寿命1年の予定で設計されていたにもかかわらず、このCZCSは極めて大量の新しいデータを収集することに成功し、海洋に対する世界の見方を大きく変えさせる結果となった。このCZCSが収集した全地球の海洋データ・セットが科学的基盤となり、その上に1990年代のいわゆる新世代「海色衛星観測」が築かれた。
2) 湧昇流ダイナミックス
ペルーの沖合い(図2左図)や北西アフリカの沖合い(図2右図)は世界の海域の中でも有数の生産性の高い水域と考えられる。左図のペルー・太平洋コンポジット(複合イメージ)は1980年1月16日から26日の期間をカバーしており、右側のアフリカ・大西洋コンポジットは1979年12月16日から22日の期間をカバーしている。
風成沿岸湧昇流(wind-driven coastal)から放出された栄養素が植物プランクトンのバイオマスを増加させ、それがこの水域の生産性を高めて世界でも有数の豊かな漁場を支えている。
湧昇流によって両方の沿岸沿いにクロロフィルの豊富な100km幅の帯状の水域が形成されており、生産性の高い「プルーム」(P1ume)も沖合い500kmから1000kmにわたって伸びている。さらに、ガラパゴス諸島周辺にも島嶼性湧昇流によって生産性の極めて高い水域が形成されていることが分かる(左図の中央部)。
3) 西岸境界流
アメリカ東部の沿岸沖合いに発生するメキシコ湾流の境界域(図3左図)や日本列島沖合いの黒潮海流の境界域(図3右図)は、海流中の低密度色素水域と、それと隣接する大陸棚や沖合い斜面の高密度色素水域との間の海色の違いとして識別できる。
これらの衛星観測イメージは1978年の11月から1986年の6月までの期間に収集した全CZCSデータから生成したものである。