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2-10 コンピュータシュミレーションによる海水の挙動解析

―分子動力学計算による解析―

 

1. はじめに

深層水は研究の進展により、表層水と異なるさまざまな性質が明らかにされつつある。従来、深層水の大きな特徴である栄養塩の効果について研究されてきている。しかし、沖縄県深層水開発協同組合の深層水研究において、十分低濃度の深層水を使った実験は、従来の深層水実験、及び表層水実験にはみられない特性を示すことが示唆されている。

この低濃度の深層水の特性の解析に、コンピュータシミュレーションを用いることができないか検討を行った。海水は、長い年月と様々な作用や物質との平衡により成り立っていて、閉鎖系で論理的にその組成が求められるものではない。ここでは、深層水を海面にくみ上げたとき、その構造に起こる変化が、観測可能かを検討する。

 

2. 対象とする系

低濃度の深層水の特性を分子化学的な方法により説明を試みるには、水そのものにどのような変化が生じているのかを明らかにしてゆく必要がある。

深層水の測定データが少ない中で、確実なことは、140気圧(深度1400m)もの圧力の中にあった水が、1気圧の空間へ取り出されるということである。

この圧力の変化に対する海水の変化についてシュミレーションを行うために、水分子に対して分子動力学(Molecular Dynamics:MD)計算を行った。

計算方法は、分子間相互作用ポテンシャルとして、TIP4Pを使い計算を行った。

水分子の集まりをつくり、290K150気圧(深度1500m相当)の条件でMD計算を行い、エネルギーの揺らぎが系の大きさに比較して小さくなるまで行う。

エネルギーが安定した状態の水分子の集団は、290K、150気圧の水の構造のスナップショットをあらわしていると考えられる。水素結合の遷移時間はfs(フェムト秒(10-15sec))の単位であるので、ps(ピコ秒(10-12sec))オーダーの計算を行う。

次に、この安定した水分子の集団を290K、1気圧の状態で、あらためて分子動力学による計算を行う。この計算過程での分子の動きが、海面までくみ上げられたときの、水の状態を表すと考えられる。この2つの状態の遷移を調べることにより、水の圧力変化による構造への影響を調べる。

 

3. 実行環境

分子動力学計算環境は以下の通りである。

1) 分子計算ソフト:Tinker3.8(OS-LINUX)

2) 半経験的分子軌道計算ソフト:MOPAC

3) 分子モデルの作成と結果の表示:MOLDEN

 

 

 

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