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広大な海洋でプランクトンの発生する場所は大陸棚の沿岸域と自然湧昇域である。自然湧昇域は全海域の僅かに0.1%であるにもかかわらず年間漁獲高の50%も占めることが解っている(ライザー、1969)。

 

3. 大陸棚海域と自然湧昇海域のプランクトン発生のメカニズム考

自然湧昇域をどう考えるか。これは有光層以深の海水を深層水と捉えると必ず間違える。この考えだと深度200m以深は栄養豊富な海水だから、深層水を大量に表層海域に散布すれば良いと簡便な結論に達することになる。

大量に低水温の海水を散布しても一様に拡散できない。水や海水の物性まで熟考する必要がある。

自然湧昇とは深層の海水が深海底の構造や海流が大気との相互作用を通して深海から僅かに湧昇し、各深さの海水を徐々に巻き込みながら表面にまで上がってくる。従って、深層水の量はほんの僅かであると解釈できる。

湧昇流中の深層水は表層水に対して僅かな量だからこそ、一様に混合できるのである。また海底構造や海流によって従来の栄養塩とは異なる組成のものを包含し、それが湧昇して光合成反応の結果として植物プランクトンが発生すると考えるならば、海ヤカラ1号周辺海域の現象や植物プランクトンの海洋に於ける局在理由がよく理解できる。

自然湧昇域の本質は大量の深度200m以深の海水ではなく、本来の深層水が回りの海水を巻き込みながら少量上がってきた現象である。人為とは全く違った自然の雄大な営みに畏敬の念すら覚えてくる。

大陸棚海域での植物プランクトンの存在はどう考えればいいのだろうか。熱帯の大陸棚海域つまり有光層は貧栄養とされているが、栄養塩が無くてもプランクトンが存在していることをどのように考えれば良いだろうか。

大陸棚海域の本質は何かと考えるならば必然的に見えてくるものがある。大陸棚は地球物理学的な意味では大陸に属する。大陸ならば、そこを構成している主要な岩石は花崗岩である。日本のような火山の多いところでは、花崗岩の上に安山岩が覆ったり、海底堆積物が隆起したり、更に長い地質学的時間の間に変成作用を受けて多種多様の岩石に変質している。

大陸棚を構成する岩石は各地域特有の岩石からなり、そこに海水が入ってきて大陸棚海域を形成したのである。つまり、海底の岩石や堆積物と海水との相互作用の場が大陸棚となる。

 

 

 

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