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陸上の実験室において、この水酸化ナトリウム溶液に塩酸を加えて再度二酸化炭素を発生させ、アンモニア水に吸収させた後、塩化ストロンチウムを加えて、炭酸ストロンチウムとして固定した。炭酸ストロンチウムをマグネシウム粉末と反応させてストロンチウムカーバイトとし、さらに水と反応させてアセチレンを合成した。アセチレンガスを比例計数管に封入し、1〜2日間かけて放射性炭素のベータ線を計測した。」(この文章は、蒲生教授から大出への私信から引用した。)前述のように、200リットルの海水を使って、1978年にフィリピン海深層水の年代測定が行われた。データは東京大学へ提出した博士論文(Gamo、1978)の一部として発表されたため、一般にデータは公表されていなかった。そこで、Gamo(1978)のデータを、表2-26(海ヤカラ号の深層水データ)と同様の形式に編集して表2-27に示す。表中の試料No.780303 (数値は採水年月日を示す)は北太平洋(日本海溝)の試料であるが、他の4データがフィリピン海のデータであり、深度3920mから5466mの3試料の年代は1828年から1978年という見かけの年齢を示した。したがってフィリピン海深層水は比較的均質でおおよそ2000年弱の年代値を示す。また、北太平洋のデータ(780303)は、深度727mが491年、3941mが2111年であり、フィリピン海と比較すると、北太平洋の深度727m(491年)の海水は、深層水の混合の程度が小さいと言える。いずれにしても、日本近海の太平洋およびフィリピン海の深度1400mから数千メートルの海水の見かけの年齢は、2000年程度であることが、表2-26と表2-27のデータから明らかである。これらの深層水は世界の海洋で一番古い水塊に属している。

 

4. おわりに

本研究プロジェクトで、海ヤカラ1号を使って深度1400mから採取した海水の見かけの年齢が2030年であると放射性炭素の測定からはじめて推定することができた。さらに、1000m以深の水塊の物理、化学的特性(すでに報告済)は非常に均質であること、さらに、フィリピン海広範囲の深層水の年齢(Gamo, 1978)が約2000年弱であることから、海ヤカラ1号設置海域の深層水(深度1400m)の2000年の歴史について次のように考えることができる。

北大西洋北部グリーンランド沖で沈み込んで形成された北大西洋の深層水は、南下し数百年から千年かけて南極海へ流入する。ここで東向きに南極のまわりを周遊する。そのときに、南極海で1部新たに表層水が加わる。そのようにして形成された深層水が1部、太平洋に流入し、太平洋深層水を形成する(図2-28、2-29参照)。太平洋深層水は太平洋西岸のトンガ海溝を北上、赤道を通過し、マリアナ海溝付近までやってくる。

 

 

 

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