訪問看護ステーション中井から3]
利用者が選択できる関係づくり
所長 吉村真由子
訪問看護ステーション中井では、施設と在宅のどちらかを「選択せざるを得ない」状況ではなく、利用者の意思によって「選択できる」ような関係づくりを目指しています。
私自身がそのように考えるようになったのは、6年ほど前に訪れたスウェーデンでの経験からでした。
当時、横浜の訪問看護ステーションで働いていた私は、在宅で療養されている利用者に何か変化が生じたとき、24時間でフォローできる体制になっていない訪問看護のシステムや人員の状況にジレンマを感じていました。そんな折に、スウェーデンでケアマネージャーとして働いている目本人の知人の紹介で、ブラッケバーリエSAHという医療施設を訪ねる機会を得ました。在宅医療部のナースの方に、日本での現状を伝えたうえで、在宅ケアについての質問をさせていただきました。そこでは骨折の治療でも早期癌の治療でも自宅で行うことができる医師・ナース・PT・OTなどが組んだ在宅医療チームがあり、緊急コールがあれば30分以内に到着する体制をもっているということでした。在宅医療・ケアの充実しているスウェーデンのことですから、在宅死を望まれる人も多いだろうと思い、「最期に施設を選ばれる方と在宅を選ばれる方の割合はどのくらいですか」という質問をしたところ、「ほぼ50%ずつよ」という返答が戻ってきたのが印象的でした。当時、横浜市中区のステーションの利用者は100人ほどでしたが、在宅で亡くなるケースは年間に数人で、利用者に異変があれば、ほとんどの方は病院を選び、そこで亡くなっていました。そのことを話すと、スウェーデンのナースたちに驚かれたことを覚えています。
ピースハウスとの連携
まだ開所して1年の訪問看護ステーション中井ですが、ピースハウスと連携しながら「選択できる」関係づくりへの取り組みを始めています。ピースハウスの先生方は、初めて来られる外来の患者さんに、「今後どのように過ごしたいですか」という質問をされます。じっくりと話を聞きながらご本人やご家族のお気持ちを尊重し続けようという姿勢は、病院スタッフのみならず私たち訪問看護スタッフにも共有されるものです。私たち訪問看護スタッフが24時間体制で対応し、何かあった場合にはピースハウスの先生に往診してもらったり、あるいは入院を希望されたときにはピースハウスのスタッフに受け入れてもらっています。
先日、この1年間のステーション中井の利用者の方々に関する調査を行いました。昨年度の利用者50名のうち、ピースハウスの外来患者さんを在宅でフォローしたケースは14名でした。14名の内訳は、状態が悪くなっても自宅で過ごすことを望まれた方が7名でした(そのまま自宅で亡くなった方が6名、自宅を望まれていたにもかかわらずピースハウスで亡くなった1名の方は、ご家族の介護の体制が整うまで一時的に入院をしているときに急変された方でした)。また、状態が悪くなったらピースハウスに入院することを希望された5名の方は、自宅療養の後ピースハウスで亡くなられました。あとのお2人の方は、現在在宅フォロー中です。7名が最期まで自宅を希望、5名が自宅からピースハウスへの入院を希望という数字を見ると、利用者の方の意思によって「選択できる」関係づくりができるようになってきたように思います。
今後の課題
しかしながら、他の病院との連携に関しては、まだまだ課題を残しています。利用者の主治医が一般病院の場合は、異変があったときにはたいていその主治医の病院に行き、入院しています。往診の体制が困難なため、入院を「選択せざるを得ない」という側面があります。今までの経験では、在宅で最期まで看取られた方がお1人だけいらっしゃいました。それは、ご家族の方、主治医であった病院医師、緊急の場合に往診してくださった近隣の医院の医師、24時間体制の訪問看護スタッフの連携によって初めて可能になったケースでした。
まだまだ多くの課題が残されているのですが、連携によってなし得たいくつかの貴重な看取りの経験に学びつつ、「選択できる」関係づくりに努めていきたいと思います。
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