彼らはそうやって10年、20年生活してきたのであり、台所が汚れているからといって死ぬこともなかったのです。ホームヘルパーは自分の生活パターンを持ち込んではいけないというのは基本的なことです。ところが、このようなかかわりは善意なので、なかなか注意しにくい。しかし基本的な事柄についてはきちんと伝えるべきでしょう。そうでないと家族はたまりません。
食生活も同様です。年をとったのは実績であり、その人なりの生活習慣や食生活でいいということです。医療者は彼らから教わることがたくさんあるのに、本に書いてある通りに指導しようとしがちですが、年をとった彼らは毎日の食事はたんぱく質や塩分が何グラムとか何キロカロリーとかを気にしていないで、長生きしているのです。
83歳で特養に入所した女性は血圧が170から200以上の高血圧ですが、内科医にどんなに禁じられても隠れてご飯の上に漬物を山盛りにして食べていました。そして93歳のときに大きな脳出血を起こしほとんど即死でした。内科医は「それみたことか」と言いましたが、スタッフは「大往生だ」と彼女の死を受け入れていました。内科医の治療方針は間違っていたわけではありませんが、彼女はそれを聞いた上で自分の生き方を決めたのです。漬物をひかえたら100歳まで生きたかもしれませんが、「漬物が食べたい」と言い続けたことでしょう。
また、関係調整とは、家に入って関係ができてしばらくすると老人から「嫁が意地悪だ」という話を聞かされたり、逆に嫁や娘から「老人がわがままで困っている」と愚痴をこぼされると、「もう少し優しくしてあげて」とか「若い人の気持ちも考えて」などとアドバイスすることです。スタッフは善意なのですが、たいていの場合かえって彼らの関係を悪化させたり、「あなたはもう来ないでほしい」と断られることになります。