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○頭足人はなぜ描かれるのか。

まず、好きな人の絵を描く。あるいは、身近の注目している人をよく見ているので、それぞれの特徴を表している。子どもが注視し、イメージとして残る所は顔である。子どもは、いろいろな伝達の発信器となる目と口を、最大の関心を持って見る。従って頭足人には、伝達の発信機能のない耳や鼻などは描かれない事も多く、描かれていてもあまり重要視されていない様に見受けられる。3歳児は、決して人間が頭足人に見えるわけではなく、知覚は大人と同じである。ところが、描くという表現の時には、すべて円で表現するのである。特に、四角や三角などを表現する事が難しいので、頭から胴をも含めた長四角の様な全体も円で表現するのが、その誘因であると考えられている。

2] イメージの時代

ピアジェは、「2歳半頃からイメージが形成される」と言っているが、見たてる事や象徴化する事が出来るという事は、実際に目の前にそのものがなくても、イメージする事が出来るという事である。

3] 表出から表現の時代

2歳頃までのスクリブル(2歳あるいは、それ以下の幼児の作る、20種類の基本的な線構成。<図2-3>を中心とした絵は、特に「伝達」の意図を持たない、刺激に反応する感情と手指の運動とみる事が出来るので「表出」行動である。しかし、言語の発達と共に、伝達したい内容を独自のシンボルを使って表し、それを相手に伝達しようとする様になる。例えば、頭足人を描き、「うちのママよ」と言う事などは「表現」にあてはまる。3歳児でも、まだ「表出」の世界にとどまっている子も多いので、3歳児とは、「表出から表現へのかけ橋の時代」といえる。

4] 円中心の時代

身体の発達により、手首の回転及び肩関節の回転が大分巧みになり、大きな円も小さな円も自由に描ける様になるので、円を盛んに使い、三角形の物でも四角形の物でも、すべて円で表す事がある。心理学者アルツハイムは、「円は本源的な形である」として、右の絵<図2-2>をあげている。「庭で働いている植木屋さんがこういうのを持って木を切っているよ」と描いた絵だが、串にさしたお団子の様な物が、「のこぎり」である。三角形も真四角の様な形も、腕が完全にコントロール出来ないのと、「三角も四角も、1つのつながった形であるという見方で、歪んだ楕円やひずんだ円に近い形になる」という捉え方の為に、すべてが円で描き表されていく。

 

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<図2-2> のこぎりも円で描く

 

 

 

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