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5.2. ARGO計画の目指すところ

海を学問的に研究する立場からの期待も大きいのですが、ここでは社会生活に密接に結びついたARGO計画の目指すところを記したいと思います。大きく、次のような3つの項目に分けられるのではないでしょうか

ARGO計画の目指す第1は、「海の天気図」作成です。これまで、我が国で言えば気象庁・水産庁・海上保安庁水路部など、現業の官庁が主に海の監視を行ってきました。また、大学や国立の研究所でも海洋監視の努力を行っています。しかし、海は余りにも広大ですので、第3章で述べたENSO観測網を持つ太平洋赤道域など一部の海域を除き、資料は極めて不十分です。その具体例は前に示した図12に端的に表れています。全世界の「海の天気図」は残念ながら現状のままではとても描けないのです。しかし、ARGO計画が達成されて図11に示したような観測点分布になりますと、それが可能となります。

私達は「海の天気図」それ自身から、多くの有益な情報を得ることが出来ます。多少の予備知識があれば、私達が(大気の)天気図から多くの情報を得ることと同様です。例えば、黒潮やその続流などといった海流のおおよその位置を判断できますので、外洋を航行する船舶は流れに乗ったり、あるいは避けたり、最適の航路を選択することが出来ます。また、漁場は異なる水温や塩分を持つ水塊がぶつかり合うところ(これを前線とか潮目といいます)に形成されますが、それがどこにできているのかが即座に分かりますので、漁場探査を容易に行うことができます。さらに、漂流の予測などにも利用できそうです。

ARGO計画の目指す第2は、「海の天気予報」です。海洋数値モデルの初期条件として資料を使いますと、慣性が大きい海の現象はゆっくりと変りますので、ある程度の時間、海の変動を予測できることになります。例えば、黒潮は日本の南でその流軸の位置を大きく変えることが知られています。ヘビがくねるような姿ですので、これを蛇行現象と呼びます。特に大きく、また、時間的に長く継続するものを黒潮大蛇行と呼びます。黒潮大蛇行は、漁場め位置を変えるばかりでなく、日本の天候にも影響を与えていると考えられています。モデルで大蛇行やその解消が予測できますと、いろいろと有益な使い方ができることになります。

ARGO計画の目指す第3は、これが本命ですが、長期予報の精度向上に役立たせることです。長期予報モデルとも呼ばれる大気海洋結合モデルヘの使用です。大気と海洋は相互作用系をなしていることは既に述べましたが、より正しく初期状態としての海の姿が分かりますと、結合モデルによる大気の振る舞いもより正しく再現できることになります。結果として、長期予報精度が格段に向上することになります。

 

 

 

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