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同時に循環系南部海域には正(負)の水温偏差が準備されます。この水温偏差が亜熱帯循環系の移流により中緯度海洋を時計回りに巡り、逆符号の水温偏差が約10年後に、再び大気海洋が結合しうる亜熱帯循環系北部海域に達することで振動を作り出します。すなわち、この仮説では、海洋内部における約10年という移流の時間が、変動の時問スケールを決めることになります。

他の1つは、Guand Philander (1997)や筆者らのグループ(花輪、1996)らが提案したもので、現在「沈み込み振動」と呼ばれている仮説です。亜熱帯循環系北部海域でできた正(負)の水温偏差が、海の内部に沈み込んで循環系を巡り、最終的に熱帯域まで達し、赤道域に正(負)の水温偏差を作ります。それが大気にPNA (反PNA)パターンを発生させ、今度は、即時的に中緯度海域に負(正)の水温偏差を作ります。この水塊がまた沈み込んで移動し、赤道域に負(正)の水温偏差を作るというものです。このメカニズムでは、水塊の沈み込み(海洋物理学の用語ではsubductionという)過程が本質的であり、沈み込んだ水塊が熱帯域に達する約10年という移動の時間が、変動の時間スケールを決めることになります。

上記2つの他にも幾つか仮説が提案されています。これらのメカニズムが現実の大気海洋系で本当に機能しているかどうか、現在精力的に調べられています。前者のメカニズムであれば、実際に中緯度の大気海洋が結合した不安定を生じさせうるのかどうか、後者のメカニズムであれば、実際に沈み込んだ水塊が熱帯域に到達するのかどうか、到達したとしても赤道域の水温場を変化しうるのかどうかが、検証のキーポイントです。しかし、これを検証する為の海洋の資料がまったく足りないのです。すなわち、全世界の海を丸ごと、かつ即時的に監視する必要があるわけです。これが、人口衛星による観測と、次章に述べる「ARGO計画」に大きな期待を寄せる理由の一つなのです。

 

5. 海洋監視の新しい旗手ARGO計画

既存の観測網に加え海を監視する切り札の一つとして、私達は今、国際的な枠組みの中で、ARGO計画を推進しようとしています。この章ではこの計画を紹介します。なお、本誌2000年7月号に、「ARGO (アルゴ)計画」と題して、ミレニアムプロジェクトとして推進されている我が国のARGO計画が解説されています(佐伯、2000)。我が国における計画の詳細は、そちらを参照して下さい。

 

5.1. ARGO計画とは

ARGO計画とは、常時約3000個のARGOフロートを世界中の海にくまなく展開し、即時的に海を丸ごと監視しようとする計画です。用いるフロートは、図8に示すように、アンテナを含めた長さが約2メートル、直径が約25センチメートル、空中での重さが約25キログラム程度のものです。

 

 

 

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