日本財団 図書館


このフロートには、浮力を調節する機構がついているのが特徴です。図9にフロートの動きの模式図を示しました。フロートは投入後、深さ2000メートル付近の流れに乗って漂流しますが、約10日間に1度、浮力を調節して浮上します。この浮上の途中約50点の深さで水温と塩分を計測します。そして海面に浮上後、電波で観測値を地球周回衛星(NOAA (ノア)と呼ばれる米国の気象衛星)に送信します。送信を確実なものにするためこれを何度も繰り返しますので、海面には約半日から1日程度留まることになります。その後、再び浮力を調節し、沈降します。そしてまた、深さ2000メートルで漂流します。このような動きを繰り返すわけです。フロートの寿命は、約4年程度と考えられています(注3)。ARGOフロートはまた、通常は2000メートルという海の中層を漂流しますので中層フロート、あるいは水温や塩分の深さ方向の分布を計測しますのでプロファイリング・フロートと呼ばれることも有ります。

送信された資料は、今度は衛星から地上局に送信され、直ちにフロートを漂流した機関へ送られます。資料を受領した機関では、様々な要因で誤差が混入しますので、資料の品質管理を行い、すぐに利用するとともに、世界中の関連する機関へと、資料を配信します。AROQ計画では、このような資料の迅速な配信が重要視されているのです。ARGOフロートが計測した具体的な水温などの鉛直分布を、図10に示します。この資料は、2000年3月21日に黒潮域に投入されたフロートが、4月19日に計測したものです。

さて、なぜ世界中の海で常時3000個のフロートが必要なのでしょうか。これは緯度・経度にして3度x3度(1度は約100kmですから300km四方に1つ)、約10日間で1回の資料入手を希望しているからです。この時間や空間の間隔は、これまでの海洋学の知識から、大規模なスケールの海洋現象を捉えるためには、この程度の間隔は必要であるとの見積もりから来ています。すなわち、海洋現象(捉えたい信号)の空間・時間に関する代表的なスケールを分解できるように設計されているのです。もちろん、より多くのフロートを展開したいのですが、多額の費用がかかりますので、投資対効果(いわゆるコストパフォーマンス)の最適値として選ばれました。図11に、海洋大循環モデルで模擬実験をしたある瞬問における3000個のフロートの分布を示します。1か月間では、この3倍の観測点配置になります。図12は、現在(2000年10月)報告されている表層水温観測点の分布図です。この月、気象庁には、約3700点の表層水温観測資料が集まりました。これら2つの図を比較しますと、ARGO計画達成時には、どれだけ多くの、かつ塩分も揃った資料が、全球の海洋でかつほぽ均等な分布で収集できるのか、一目瞭然ではないでしょうか。

ARGO計画は巨大なプロジェクトですので、このような計画では、各国の協力・分担が必要不可欠となります。本計画を提案した米国をはじめ、カナダ、オーストラリア、イギリス、フランス、ドイヅ、韓国、インドなど、多くの国々が既に参加を表明しています。また、投入も行われはじめました。常時約3000個という目標は、2004年頃には達成出来るのではないかと期待されています。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION