どちらの変動においても、海域によっては、1-2℃もの海面水温の差が出現していることが分かります。すなわち、変動の大きさは、両者同程度なのです。また、この10年から数十年スケールの海面水温変動は、大気におけるPNAパターンと同期して出現していることが指摘されています。現在この北太平洋で見出された振動を、「太平洋数十年スケール振動(Pacific Decadal Oscillation: PDO)」と呼んでいます。そしてこれらの変動は、海の生態系にも大きな影響を与えていることが知られています。
4.2. 北大西洋振動(NAO)と北極振動(AO)
これら10年から数十年の時間スケールを持つ変動は、その後北太平洋セクターに限らず、他のセクターでも見出されてきました。北大酉洋セクターには「北大西洋振動(North Atlantic Oscillation: NAO)」と呼ばれる現象が指摘されています。冬季、北大西洋北部に中心を持つアイスランド低気圧と、南部に中心を持つアゾレス高気圧が、約10年程度の周期で、それぞれ同期して強化・弱化を繰り返しているというものです。この変動は北大西洋の中・高緯度の海面水温場の変動も伴っており、ヨーロッパの気候に大きな影響を与えていると考えられています。さらに、大西洋の赤道を挟む両半球の海域で、海面水温偏差が異符号を持って出現する現象も見出されています。アフリカ大陸サヘル地方の降水量の長期変動は、この変動によってもたらされているらしいのです。
ごく最近、北極海セクターに、約10年程度の変動があることが見出されました。これを「北極振動(Arctic Oscillation: AO)」と呼んでいます。この振動はここ数十年で顕著になったようです。さらに、北極のみではなく、南極周辺にも存在するとも言われています。極域における成層圏オゾン層の破壊との関連もあるようです。
4.3. 変動のメカニズムとその検証
これら10年から数十年スケール変動をもたらすメカニズムは何でしょうか。多くの研究者は、これらの変動は「大気海洋相互作用系」が担っていると考えています。すなわち、第2章にも述べましたように、大気それ自身にはこのような長い時間スケールを作るメモリ(記憶装置)がない(今のところ見出されていない)ことによっています。現在、多くの仮説が提案されていますが、PDOに関しては中でも次の2っが有力な候補と考えられています。
1つは、Latif and Barnett (1994)が提案した「熱帯域外大気海洋結合不安定モード」とでも呼ぶべきものです。黒潮続流域を含む亜熱帯(中緯度)循環系北部海域で、大気と海が正のフィードバックを持つ結合により、大気にPNA(または反PNA)パターンを発達させ、また海には負(正)の海面水温偏差を作ります(図7(b)参照)。