2.2. 大気と海の貯熱量
次に、大気と海が貯えている熱量(貯熱量)を考えてみましょう。空気(海水)の密度、定圧比熱、温度、空気(海水)の総量から、大気(海)の持っている総貯熱量を求めることが出来ます。これもおおざっぱに計算しますと、海は大気の千倍もの多くの熱量を持っていることが分かります。これには海水の密度が大気のそれに比べて、約千倍大きいことが効いています。そこで、しばしば「海洋上層数メートルの海水の持つ熱量は、大気の持つ全熱量に匹敵する」と表現することがあります。
海は莫大な熱量を貯えていますので、多少の熱の出入りがあったとしても温度が変らないことを意味します。。また、緩和時間が長いので、たとえ局所的に海水が暖まったり、また冷やされたりしても、容易に海全体には広がらないことになります。
2.3. 数値モデルにおける海の扱い
前節まで述べたような事情が有りますので、大気の運動や熱的な状態を調べる数値モデルにおける海の取り扱いには、対象とする時間スケール(長さ)で変ってきます。
日々の天気を予報するようなモデルでは、海と大気は熱のやり取りを行っていますが、短い時間では海の温度は大きく変りませんので、最初に与えた大気に対する下部境界条件としての海面水温を、計算(積分)している途中変化しないとして一定値で与え続けます。1週間やそこらでは、海面水温は変らないとするわけです。すなわち、日々の天気を予報するモデルは、基本的には大気のモデルなのです。
一方、もっと長い期間、例えば季節以上を対象とするモデルでは、いくらゆっくり海が変るとは言え、海の状態も変化するとしなければなりません。すなわち、海の変化も予報すべき対象となるわけです。大気のモデルから、大気と海が結合したモデル、大気海洋結合モデルになります。大気は海面温度を感じていますので、特に大事なのは海の表層の水温です。海の表面近くには、海洋混合層と呼ばれる水温や塩分が鉛直的に一定の層がありますが、この混合層の振る舞いを決める正確なモデルが要求されます。
さらに長い時間積分し長期の気候を知るためのモデルの中には、大気は海に従って変るとの極端な立場のものもあります。具体的には、大気の運動を支配する方程式から、時間変化を表す項を取ってしまうのです。大気の運動は海の変動の結果変る海面水温のみで決まり、大気自身の自由な運動はないという取り扱いです。このような状況を極端に表現して、長い時間スケールでは「大気は海に隷属する」と言うこともあります。